ニュージーランドのバンドThe Beths、実は遅まきながら先行シングル「Silence Is Golden」で初めて知りました。
基本はシンプルなパワーポップながら、手垢がついてそうなところを華麗にかわすフックに富んだソングライティングとアレンジにビックリし、アルバムを心待ちにしていた次第です。
そして3rdアルバム『Expert In A Dying Field』も、期待にこたえてくれる素晴らしい出来でした。
キャッチーさと心地よいフックが詰まったエヴァーグリーンなメロディに、いろいろなタイプのポップソング、パワーポップ、オルタナギターロックと、バリエーションに富んだ楽曲が緩急つけてバランスよく並んでおり、非常に完成度の高い、万人受けする楽しいアルバムとなっています。
たまにはこういうシンプルにポップな音楽もイイよね。
そう思っていました。
歌詞を読むまでは。
このバンド、歌詞がなかなか個性的なんですね。
ミュージックビデオも楽曲から受ける印象と寸分違わない楽しげな内容なので、何の疑いも持ちませんでした。
ラブソングの歌詞が乗りそうな曲調でも(そういう曲もあるものの)、基本は困難や悩みに直面した際の心の中の自問自答だったり、シリアスに現代社会・環境への問題意識をテーマにしていたり、ということが多く、しかも、それが自虐とも、自虐と見せかけたシニカルな警句ともとれるような、パッとは分かりづらい表現で書かれています。
まるでクサビを打つように、感傷や雰囲気でお茶を濁せない、あえてポップな楽曲とは対極の冷徹で知的な言葉をメロディに彫り込んでいっている感じというか。
なので、歌詞を理解するためには、英語の翻訳以上に自分の中でテーマについての解釈を思いめぐらせないといけず、なかなかに手ごわいです。
そもそもアルバムタイトルが『Expert In A Dying Field(死にかけ分野のエキスパート)』ですし。エネルギッシュな楽曲のサビで「Silence Is Golden(沈黙は金なり)」のリフレインとか。
フレンドリーでポジティブなムードのギターポップにこの歌詞をぶつけるという、ここが彼らのユニークな点であり、オルタナティブロックバンドとして評価されるところなのかなと思います。
ただ、自分としてはちょっと評価が難しいというか、歌詞は決して悪いとは感じないものの、Radioheadみたいに曲もメランコリックでビターならばそっちの世界観の中で浸れたりするんですけど、曲がポップかつエネルギッシュなので、あれ?っていう。
バンドの意図としては、この想いを楽しい雰囲気で共有したい、ということのようですが、どうもネガティブな性格のため、モヤモヤのほうに引きずられてしまうというか、いっそモヤモヤ包まれてダウナーになりたい……と思ってしまうのが良くないのかもしれないですねぇ。
とはいえ、このアルバムの試みは面白いと思います。
そもそもサウンドとメロディだけで聴いても替えが効かないレベルの高性能ポップアルバムなので、無理に歌詞を紐解かなくてもよいのかもしれませんね。
ちなみに蛇足ですが、こういうタイプのアルバムは日本人リスナーにとって、なんとなく聴いているだけだと英語話者との間で評価が全然違ってしまうリスクがあるなあ、と切実に思いました。
もうちょっと耳から入った英語をその場でパッと理解できるようになると評価がカチっと定まりそうですね。
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