
名盤『Meddle』と『The Drak Side Of The Moon』の間に出たちょっと特殊なアルバム、Pink Floyd『Obscured By Clouds』。
フランス映画『ラ・ヴァレ』のサントラとして、ツアーや『The Drak Side Of The Moon』の制作の合間を縫って2回のセッションで一気に録音したものとなっています。
このアルバムは多くのレビューサイトで低評価になっているうえ、映画のほうも芳しくない評価のようなので、フロイド作品のコレクションをしている大ファンでなければ手にする気にはならなそうな作品です。
でもちょっと待って欲しい。
これ、そんな悪い作品ですかねえ。
確かに「プログレの大家にしてロックレジェンドPink Floydの作品」というモノサシで測ると、低評価なのも分かります。
壮大なコンセプトや、1曲数10分の組曲、もしくは初期の眩暈のするガレージサイケなど、Pink Floydっぽい要素はほとんどないので。
ただ、現代のネオサイケデリアなサイケ・ポップと比較して聴くと、けっこう輝いて聴こえるんですよね。
まずはこのフロイドの美メロ芸がいかんなく発揮された「Burning Bridges」から。
ドリーミーでまどろんだメロディと音空間が非常にキモチいい。
また、美しいハーモニーを聴かせるブリティッシュフォークな楽曲も。
このアルバムのいいところは、3~4分のコンパクトな尺で、美メロあり、シンセ主体のサイケなインストあり、グルーヴィなロックサウンドあり、フォーク・ロックありと、バラエティに富んだ緊張感なく聴きやすいポップな楽曲群がテンポよく並んでいるところです。
サントラ作品ってもっと薄味になることが多いですが、この作品は下手すると他のフロイド作品よりもポップ。
作品のテーマ性は希薄ですが、そんなものがなくても「いい曲を作ってアルバムに収める」という工程は他のバンドだとそもそも普通のことなので、Pink Floydが普通のバンドみたいなプロダクションをしたらこうなった、しかも完成度が結構高いぞ、という点が驚きだったりします。
こちらの「The Gold It’s In The…」も、Pink Floydでは珍しい直球ロックな楽曲。
生々しいピッキングのニュアンスや、アンプ由来のクランチ気味の歪みが心地よいビンテージなギターソロ、あったかみのあるバンドのグルーヴはこの時代ならではですが、Pink Floydがやってるとなんか新鮮な感じ。
ロジャー・ウォーターズが歌うほのぼのとしたフォーク・ロック「Free Four」も。こういう感じの曲もほんと珍しい。
アルバムの最後を締めくくる「Absolutely Curtains」、これは普通に瞑想的なサイケデリックインストですが、映画『ラ・ヴァレ』のあらすじ「パプア・ニューギニアの奥地にある“雲の影”に隠された楽園のような部族の村を探す旅」をなんとなくイメージしながら聴いているとトリップ感があって面白いですね。
テーマ性は希薄といいながらも、アルバムの流れとしては序盤・中盤(A面最後)にもインストが入っていて、散漫な印象はなくストーリー的な起伏に配慮した構成になってます。
まとめ
壮大なテーマ性を持った作品ではない代わりに、マッタリしたいときに気軽に聴ける感じがとてもイイです。
Pink Floydにサイケを求めるならやっぱり初期のシド・バレット在籍時の作品がイイですが、この作品の「ほんのりサイケ」「でもポップ」みたいなさじ加減は、冒頭でも書いたような現代の「ネオサイケデリア」なサイケポップに近いニュアンスになんじゃないかと。
アルバムの制作事情が特殊だったゆえに図らずも生まれた偶然の魅力な気はしますが、Pink Floydの微妙な作品という位置づけに埋もれさせるにはもったいないアルバムだと思います。
ガチのプログレ好きではなく、現代のサイケポップ、インディーポップ好きのリスナーに聴いて欲しいですね。
ちなみに蛇足ですが、このアルバムのアートワークがシューゲイザーっぽくて好きだったんですけど、冒頭に貼った私が持ってる海外版のジャケットはハイプステッカーのような左上の丸い部分が歌詞カードに直にデザインされちゃってて残念過ぎます。ちくしょう。
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