Everything Everything / Mountainhead(2024)

新譜
イヤーワーム現象量産のポップロック職人Everything Everything、もう7枚目だというのに2~3年おきにアルバムをリリースし続けているのは何とも驚異的。そろそろネタ切れしてしまうのでは、というファンの心配をよそに今作もしっかりといつものクオリティを保っていて、脳みその中でリフレインが止まらないフレーズ、聴けば聴くほど良さが分かってくるウマミの沁み込んだ曲が14曲も並んでいる。いつもありがとうございます。

今作は、歌とメロディの比重が高い、シンプルな作風である、というのがまず最初に気づく点だ。いつもの複雑なリズムやひねったアレンジは皆無で、全曲で歌が活きるような分かりやすい曲作りがなされている。メロディの良さも前作『Raw Data Feel』と並び立つレベルで、特徴的なフックを持った粒揃いの曲が並び、飽きさせる瞬間がない。収録曲数も多いのに、もたれる感じがないのも良いところだ。

そして、今作は明確なコンセプトを持ったアルバムであることが公式に表明されている。もちろんプログレのような組曲になっているわけではなく、いつものように、3〜4分のポップなロックが小気味よく収められている。ただ全ての曲で、テクノロジーや資本の急成長により私たちは自分で自分の首を絞めている、人々は疲弊して感情を無くし孤独を抱えているにも関わらず未だ熱狂に駆り立てられる、そんな悲しい現代社会がテーマになっている。ともすればディストピア的な陰鬱さや、冷笑的なムードに満たされそうなテーマだが、全編通して聴くとそんな印象は無く、君は一人じゃないよ、と人間の優しさや温かさに満ちた感動的な作品に仕上がっているのが素晴らしい。

中でもリードシングルとなった「Cold Reactor」の出来が特に素晴らしく、軽快でキャッチーなポップソングに、アルバムのコンセプトを明確に表現した歌詞…山を高くするのに取り憑かれた人たちが山を大きくするために穴を掘っているが、穴を掘るために労働をして(MVでメンバーが熱演)、穴はどんどん深くなっていき、太陽も届かなくなり、いつの間にか自分たちの健康が脅かされ、感情が無くなっていく…といった内容を、どこか悲しみや切なさも含んだメロディで歌い上げる、心に沁みる名曲となっている。(最後の「原爆のように愛してるけど、僕は冷たい原子炉になってしまった」と歌うラインだけは、日本人としては極めて強烈で深刻なメッセージに読み取れてしまうが)

他にも、ギターフレーズや歌詞がクセになる「Buddy, Come Over」(口ずさむのが困難な彼らの曲の中でもかなり口ずさみやすくてお気に入り)、マウンテンヘッドな私たちへのシンプルな問いかけ「R U Happy?」、Voジョナサン・ヒッグスお得意の早口パートが印象的なアルバムの全景を見渡すかのような「The Mad Stone」、都市生活で孤独に蝕まれる私達への悲しくも優しい歌「City Song」などなど……しがないプロレタリアートとしては沁みる曲が盛りだくさん。様々なタイプの丁寧に作りこまれたポップソングが、アルバムのコンセプトに従ってドラマチックに展開していく。まるで、いくつかの短編が集まって一つのストーリーを構成している小説作品のようなアルバムである。

今作は冒頭述べたようにサウンドが非常にシンプルとなっており、歌を活かす効果が得られている反面、初期のカッコいいヒネクレアレンジ、特にジェレミー・プリチャードのむず痒くなるようなベースラインに最大の魅力を感じた身からすると、この素直なアレンジは少し物足りなさも感じる要素でもある。それさえあれば名盤なのに……とファンとしてはヤキモキするところだが、思えばEverything Everythingの作品群はいつも「○○さえあれば名盤なのに……」が続いてきた歴史でもある。代表作がどれかという話題ではファンの間でも意見が割れることが多いので、ある種これも冒頭述べたように、いつものEE作品、でもあったりする。

とはいえ、今作のコンセプトとグッドメロディは私にグッサリと刺さった。昨今、脱成長とかベーシック・インカムなどに代表されるように、「そもそも私たちもう、こんな全員が必死になって働かなくたっていいのでは?」といった問題提起も聞こえるようになってきた。そんな情報を横目で見ながらも、「いやなんか、でもやっぱ、そんな怠けたら人間だめなんじゃないだろうか」みたいな生理的レベルの忌避感で、なんか結局会社の上の人たちが決めた謎の目標に駆り立てられて必死に働きがちな私のようなマウンテンヘッドな人間には、このアルバムはいたく沁みる。この点、自分にとっては特別なアルバムとなりそうだ。

評価:★★★★ 8/10

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