The Marias / Submarine(2024)

新譜

プエルトリコ出身のヴォーカリスト、マリア・ザードヤを中心としたUSのインディバンド、The Mariasの3年ぶり2ndアルバム。
デビュー作『Cinema』は曲自体良かったのだが、ドライかつソリッドな音作りと、アルバム通してメランコリアが強調された作りになっていて、初期のEPやミニアルバムで見せていた甘い夢見心地感があまりなく、少し不満の残る内容だった。(1stアルバム『Cinema』のレビューはこちら
今作はその対極で、『Submarine』と言うタイトルの示す通りリバーブの多いウェットな音作りなうえ、甘いメロディを持つ曲がたくさん収められており、ほろ苦い大人の恋愛ストーリー的な歌と合わせて雰囲気たっぷりだ。まるで上質なワインを飲んだ時のような心地である。初めて聴いたとき満足感のあまり、そうそうこれが聴きたかったんだよ、と思わずニヤついてしまったほどだ(しかも駅のホームで)。

The Mariasはネオソウル、ドリームポップ、エレクトロポップ、ネオサイケデリア、オルタナティブ・ロック、ラテンポップ、このあたりをミックスしている、意外とカテゴライズしづらいハイブリッド型のポップバンドであるが、それ故に曲のバリエーションが豊富であることが強みだ。ソングライティングで勝負するポップバンドというのは、メロディが出涸らしになってしまったらそこで終わりである。この作品は、初めから終わりまで魅力的なメロディが尽きせぬ泉のごとく湧き出ており、その上マリアさんの甘いボーカルが、時に妖艶に、時に切なく、余韻たっぷりにメロディに情感を吹き込んでいく。まずこれだけで素晴らしい。14曲も入っている割に飽きずにスルスルと聴けるのは引き出しの豊富さの証だ。
Tame Impalaを思わせる幕開けの曲「Ride」から小刻みに強めのフックが効いた小曲を連発し、ファンキーな「Run Your Mouth」で序盤をシッカリと締める。中盤もキャッチーなサビを持つ「Real life」や、浮気を疑う重い彼について歌う「Paranoia」で切なく盛り上げ、スペイン語曲のラテンフレイバーでエキゾチックさを醸し出しだす「Lejos de Ti」などでディープに聴かせる。終盤に至っても、ほろ苦いメランコリアが胸いっぱいに広がる耽美的な「If Only」や気だるく締めるラスト「Sienna」と全編通して隙がなく、みずみずしい、素敵なポップアルバムである。傑作だ。

補足で書いておきたいのが、The Mariasのライブ。『Cinema』のレビューでも言及したのだが、動画で確認する限り、オルタナティブ・ロックやネオサイケデリアの要素が強いトランシーな演奏と、マリアさんのインディバンドとしては規格外の妖艶なパフォーマンスが、すごく良さそうなのである。フェスに呼べば盛り上がりそうだけど、アメリカの新人バンドを円安ジャパンが呼ぶのは難しいだろうか。サマソニもあの有様だし、期待薄である。海外のインディバンドのライブが見たかったから、自分が金稼いで海外に行くしかないのか…。
評価:★★★★☆ 9/10

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