Zazen Boys / らんど(2024)

新譜

解散したり活動休止したりしていたわけではないのに約12年間も新譜が出なかったZazen Boys、吉田一郎脱退とかコロナ禍などの出来事はあったにせよ、かつての創作意欲ムキムキな向井秀徳を思うと意外である。その時の心境は複数のwebメディアのインタビューで確認出来るが……まあなるほどとは思う。
長いリリースのブランク後でありベーシストMIYA加入後初の作品でもある今作、さまざまな変化を期待したが、シンセの音が減りギター主体の音構成になったくらいで、シンプルなメロディへの回帰や和製ブルースロック的なソングライティング、Captain Beefheart的な人力の混沌グルーヴが駆動する、概ね前作『すとーりーず』の延長線上にある作品という印象だ。
最初の一音が鳴った瞬間から、ああこの各楽器の音色、録音の質感へのフェチ的なこだわり、音だけで分かる唯一無二な音はまさにザゼンだなあ、相変わらず気持ちいい。といきなり幸せに包まれるがそれは置いといて、“だんびら”の語感から珍妙なイメージを膨らませていく如何にもザゼンらしい「DANBIRA」、混合拍子で踊らせる超カッコいいファンキーマスロック「バラクーダ」と出だしは上々で、刃物のように鋭いギターのリフとバキバキのスラップベース、道場での激しい組手を思わせるドラムの応酬がダンサブルな「杉並の少年」も痛快である。
ただ今作、ブルースや演歌のような、人間の業から生まれる重たっ苦しい倦怠感やメランコリアが底流している作品でもある。特にくたびれたムードの「公園には誰もいない」から、コーラスのかかったビターなギターコードがもはや蒼さも色褪せた追憶の高校時代を思わせる「ブッカツ帰りのハイスクールボーイ」、戦時中の日本をテーマにしたシリアスな「永遠少女」、さらに、珍しくサイケな音像でねっとりとした狂気がフツフツと迫り上がっていく「YAKIIMO」までが、ただならぬ重力の発生源になってアルバム全体に波及している。ナマズの連呼がユーモラスな「乱土」や、伝説のこれだラーメンの調理コーナーをそのまま歌にした感のある不条理ギャグなラスト「胸焼けうどんの作り方」を持ってしても、やはり重い感じの印象は拭えない。この鈍色のやるせなさに共感してしまうところ、向井も私もオジサンになった。なんともはやである。
評価:★★★☆ 7/10


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