シングルレビュー2024年12月

新譜
ハッピー・ニュー・イヤー2024、ということだが、去年リリースの作品レビューもまだ続いており、Album Of The Year2024も準備中なので、とりいそぎいつものミニアルバム未満の作品レビュー。12月は11月までとは打って変わって作品数が少ないため、12月のリリースに限らず、載せ忘れていたもの、最近知ったもの含めて紹介。

James Blake / Like The End


AI生成のMVで唯一と言っていいくらい心を掴まれたPV。SNSでよく見るAI生成の実写風画像はどこかに違和感や不気味さがあり、これを調子に乗って使っている広告が大嫌いなのだが、それを逆手に取ってディストピア感の表現としてAI生成動画を使うアイデアにまず感心した。サムネからして、知恵のある獣すらもアニメガールコンテンツのドラッグに中毒してしまう(また獣故に羞恥心やコンプレックスが無く無邪気であるように見える)世界を思わせていきなり衝撃を受けるが、全体的に不気味で不穏な、そして物悲しいディストピアであると同時に、私たちの社会の別視点からの見え方であるようにも感じ、フクザツな心境になる。最近のイギリスの意識高めなポップやロックは、急成長するIT系の技術革新やそれに付随する民衆の価値観の変容、そしてそこから生まれる心の闇といった現代社会の負の側面を取り出し、私たちの現状ってこういう感じだけどさあこれをどう思う?と問いかけてくる作品が多いように思う。SNSとかまさにディストピアという感じだし、『1984』を生んだ国のアーティストが敏感に察知するのも当然のことかもしれない。
それにしても、James Blakeってあまり聴いてこなかったんだけど、こんな昔のRadioheadみたいな感じだったっけ?

Vinyl Williams / Pure Imagination


久しぶりのリリースは映画『夢のチョコレート工場』の劇中曲のカバー。ちょっと前にもThundercatのカバーをやっていたし、今はそういうモードなのかな。最近ハイペースなアルバムリリースが続いていたのでのんびり充電していただきたい。
ライオネル・ウィリアムズはこの曲にすごい影響を受けたそうで、確かにこのフィリーソウル的な甘いコードワークとメロディはVinyl Williamsのオリジンを感じるし、私もとても好きだ。

Orange Flavored Ciggarettes / Siracusa


80’sなディスコビートに、真夜中のカクテルのように甘く夢見心地のメロディと歪む音像。スッキリとした解決感のないビター&ファジーな転調コードのループにサイケ味をも感知できる、秀逸なシティポ系ドリームポップ。アルバムを聴きたい。

Starcleaner Reunion / Cafe Life


最近知ったNYのバンドの4曲入りシングル。喫茶店好きとしては見逃せないタイトルですねぇ。と、それはさておき、1曲目「The Hand That I Put Down」から初期のステレオラブ感満載で笑ってしまったのだが、よく聴くとクールなVoとポップなメロディはIvyを、思い切りの良いノイズギターの壁や幻想的な音響はSweet Tripなどのシューゲイズ、ドリームポップバンドも彷彿とさせるし、他の曲はそこまでステレオラブ的なノイズポップではなく色々なものが混ざっている感じだ。ドライなヴォーカル処理やクリーントーンのギターの絡みなど、いかにもアメリカのバンドらしいカラッとしたドリーミーギターポップの「Snowfeel」、シューゲみのある「Birds on Power Lines」と、気持ちの良い音響を展開している。90年頃のシューゲイズ、ノイズポップ、ドリームポップあたりが好きなリスナーは要チェックである。

Horsegirl / Julie


そしてHorsegirlもまさかの初期ステレオラブ感満載。アナログシンセというかムーグ的な音も聴こえるし。「2468」とはまた違った感じだし、アルバムはバラエティに富んだ内容になるのだろうか。

FKA Twigs / Eusexua


有名なので知ってはいたが、特にハマることなく通り過ぎていたFKA Twigs。この曲あたりからYouTubeがやたらオススメで出してくるので気になって聴いてみたら、強烈な肉体表現のMVに若干怯みつつも、グリッチ的な音はカッコいいしビートはタイトだし歌は美しいしで、スッと入ってきた。前からこんな感じだったっけ?と過去作を聴くもこんな感じではない。レフトフィールドポップ(ハイパーポップ)に分類されてる女性アーティストは、作品によってハマったりハマらなかったりで、Charlie XCXも『Crash』はハマったものの評価の高かった『Brat』はイマイチに感じた。FKA Twigsも間もなくリリースされる新譜がついに私に効くターンなのか。果たして。

一十三十一 / Like a First Kiss feat. Wild Nothing


最後は大ファンであるトイさんのひさしぶりの完全新作、しかもWild Nothingとのコラボで二重で驚いた。最近はインディポップやドリームポップがジャズ、ソウル、エレクトロを取り込み始めてシティポップみたいになることもしばしばで、逆パターンであるこのコラボも納得ではあるのだが、こと日本においては自分のシティポップ趣味と海外インディ趣味はどこか乖離している気がしていたので、好きな日本のミュージシャンにそこを結びつけてもらえるのは嬉しい限り。出来れば新譜と合わせて一十三十一の全作品レビューを敢行したいところ。
ちなみにWild Nothingも『Nocturne』以外ちゃんと聴いてなかったんだけど、近作はかなり80年代のニューウェーブポップみたいになっていたんだな。チェック不足が多い。

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