The Smile / Cutouts(2024)

新譜

前作『Wall Of Eyes』で、企画的な1作限りのコラボバンドではないことを見せつけられ驚いたのだが、年内にさらにもう1枚出してくるのはサプライズ過ぎた。『Amnesiac』のときは初めからもう1枚あるよと言ってたし。ということで早くも3枚目のアルバムの登場である。
作品全体としては珍しくテーマ性がなく、出来た曲を良い感じの曲順にして並べた感のある作り。まあつまり普通のミュージシャンと同様の制作手法なのだが、それ故に、ジャズ、エレクトロ、フォーク、ネオサイケ、クラウトロック、現代音楽など3人それぞれの表現力や実験的アイデアが前作以上に自由奔放に解放されている。スリーピースの有り余った音のスペースを埋め尽くすようにジョニーも弾きまくっているし、トム・スキナーも今までで一番ジャズドラマーっぽい仕事をしている。まとまりのあった1枚目2枚目と比べると、コンセプト的な強制がない分曲ごとに振れ幅が自由で、聴いていて単純に楽しい作品だ。
“ビューティフル・ワールド”とトム・ヨークが歌えば当然皮肉ですよね、という感じでさらにサウンドの美しさが皮肉にペーソスをもたらしている「Foreign Spies」や、近未来的なシンセの不思議な響きとIT社会の心の闇を掬い取ったかのような不穏な歌詞にヤラレる「Don’t Get Me Started」、幻想的なストリングスとピアノをバックにトム・ヨークの美しい歌を聴かせる「Tiptoe」などドップリ聴き浸る曲も印象的だが、これまであまり聴けなかったグルーヴィな曲が多いのが今作の良さである。ジョニーが最近お気に入りの指弾きで狂ったように弾きまくるカッコいい「Zero Sum」、エキゾチックでトランシーなニュージャズ風の「Colours Fly」、ギクシャクしたドラムと不穏なシンセベースが絡み破天荒なギターリフが舞うマッドな変態ファンク「The Slip」、性急なリズムと低音の渋いギター・リフレインが徐々に推進力を高めていくポストパンク的な「No Words」と、実際は美しいチルな曲が半分入っているにも関わらず、踊れるアルバムだと言う印象が残るほど、これらの曲が強い魅力を放っている。
一方、リフ主体のライブ映えする曲が多い故に抒情的な物語性は出づらく、そのあたりは同時に録音されていた『Wall Of Eyes』のほうでじっくりと展開されている。うまいこと2ndの世界観と3rdのグルーヴ感を良いとこ取りして1枚にまとめられていたら超名盤が生まれていたのではとも思うが、またこだわり出すとRadioheadみたいに動きが重くなってしまうので、このくらいのフットワークの軽さが良いのだろう。
このレベルの作品を1年に2枚も楽しめるのはリスナーとして幸せの極み。あとはライブさえ見れれば何も言うことなしだ。

評価:★★★★ 8/10



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