Elbow / Audio Vertigo(2024)

新譜

ビックリした。10枚目にして過去最高に元気なオルタナティブ・ロックである(『Lost Worker Bee EP』もかなり元気だったが4曲しか入っていなかったし)。どんなにキレキレなロックミュージシャンであろうとも普通はキャリアを重ねると徐々にテンポはゆったりとしていき、人生の渋みのようなものが表れてくるものだが、若い頃からそんな感じだったElbowは逆転現象、ここへ来て若手バンドが2〜3枚目くらいに出すようなフレッシュさと完成度を兼ね備えた活き活きとしたバンドサウンドのアルバムを拵えてきた。Everything Everythig同様にデビュー以来2〜3年おきにずっと作品をリリースし続けていてなおこの出涸らし感の無さはすごい。ガイ・ガーヴェイの歌い方もほとんど変わってないのに。ファン冥利に尽きるバンドである。

ホーンセクションとともに激しく蠢くベースとハネるリズムが体を揺らしてくる「Lover’s Leep」、ハイハットのアクセントが気持ちいいファンキーなドラムにぶっといノイズベースの絡む「Balu」を筆頭に、リズムを主体としたグルーヴィーな曲が多く収録されているのが本作の魅力である。もともとElbowはリズムセクションが魅力のバンドだと感じていたのだが、『The Seldom Seen Kid』以降は歌にフォーカスしたシンガーソングライター的作風が増え、バンド的なリズム要素が目立たなくなっていた。リズム以上にガイ・ガーヴェイの歌声と歌詞が魅力的なのでそれは仕方ないのだが、やっぱり初期で聴けたような歌もあるしリズムも良い、みたいな路線を待っていた。しかもそれだけにとどまらず、「The Picture」や「Good Blood Mexico City」といった過去最高に前のめりでテンポの早いギターロックな曲まで生み出しているのは驚きだ。さらに邦ロックのようにポップで若々しいギターイントロまで仕込む始末。おかげで1曲が長くなりがちなあのElbowが12曲39分台という過去最速(?)の収録時間を記録。最後も幻想的な「From The River」でイイ後味のまま終幕し、アルバム通して爽快な作品に仕上がっている。

今作から長らく不在だったドラマーに、これまでサポートとして支えてきたアレックス・リーブスが正式加入。今作は彼のリズムパターンを元にして制作が進められたようだ。この辺が新鮮な印象を抱かせる所以だろうか。その代わり、いつもの味わい深い詞世界と共に歌われるうっとりするほど美しいフォーク曲や、オーケストラを交えたシネマティックな展開は無いので少し物足りなさもあるが、この聴き味の良さと爽快感は他に変え難い魅力。いつものElbowは退屈だと思うリスナーにも聴いてもらいたいアルバムだ。

余談、いつもアルバムのどこかしらに入っているレコーディング中の雑談、今作のガイ・ガーヴェイによる「クール、ベリークール」が町田康みたいで過去イチお気に入り。

評価:★★★★ 8/10

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