2024年も断捨離を進め、大量のあった漫画本の9割以上を手放した。同時にインターネットでも脱SNSを進め、思考がSNSの集合意識に引っ張られないよう努めた。それらが奏功したのか、かなり音楽に密着できたように思う。聴く音楽増えたので、2024年のアルバムベストもTOP20まで拡張することになった。
前年までは、順位を決める際に客観的な視座にたった評価軸にも気を使っていたのだが、今年はシンプルに「自分の好き度」で測ることにした。数が多いとどちらを上にするか決めるのが大変だし、プロの音楽ライターでもない私のような個人レビュワーが、主観的な感想で評価しないのは変な気もするし。
ということで前置きはそこそこにして。今年は全ての作品で事前にレビューを更新できたので、本文は短めで、それぞれ作品のレビューへリンクを張っておく。
20.Liam Gallagher & John Squire / Liam Gallagher John Squire
2023年から50代のベテランが元気で驚いていたのだが、2024年も引き続きである。兄がジョニー・マーと組んでいたのに対抗してか、リアムは同じくマンチェスターのレジェンド、ジョン・スクワイアと組み素晴らしいアルバムを出してきた。初期Oasisのキャッチーさに初期The Stone Rosesの瑞々しさまでも湛えたシンプルにカッコいい王道のロックアルバムである。円熟のグルーヴを生み出す演奏も気持ちいいが、何よりリアムの声とジョンの激渋ギターソロに耳が幸せになる。それにしてもまさかこの後Oasis再結成になるとはね。
『Liam Gallagher John Squire』レビュー
19.Elbow / Audio Vertigo
史上最速にして最もライトでポップな聴き心地のロックアルバムの登場に、もはや笑ってしまった。「Good Blood Mexico City」のイントロのギターはもはや日本の若手ロックバンドかというほどのポップさ。キャリア初期にこれをやるなら分かるが、アルバム10枚目で、メンバーも50になったようなタイミングでのこの挑戦は偉大である。いやあ、私もこんなふうに挑戦できる叔父様でありたい。
『Audio Vertigo』レビュー
18.Mikayla Geier / Here We Go Again
メディアの記事もほとんど見つけられないし、彼女のインスタやYouTube動画もインフルエンサー的な内容がほとんどなので、結局いまだにミュージシャンとしての素性が謎のままだけど、コロコロと表情の変わる賑やかなレトロ系ポップスの良さは変わらない。なお一応この作品は公式にはEPということになっているが、9曲入って30分近くあるのでフルアルバムとしてランキングに入れた次第
『Here We Go Again』レビュー
17.Negro Leo / Rela
ハッキリ言って、年末にこのアルバムが出たために2024年のベストアルバム選出が遅れたようなものだ。明らかに良い。しかし混沌とした作風はそれなりに聴き込まないと評価が出来なそうである。それならどうせ、という感じで、年内とか気にせず全体的にじっくり聴き、じっくりレビューを書くかという気になった次第だ。
最近、南米のトロピカルな雰囲気に惹かれて、チリのインディーズやブラジルのジャズなんかを掘り進めていた。まさに求めているこの感じ、陽気なリズムと、甘くそしてメランコリックなコードとメロディ、加えて恍惚とさせるエキゾチックなサイケデリア。実験音楽としての刺激も十二分にあり、それが30分弱に超凝縮されている。濃密な傑作アルバムだ。
『Rela』レビュー
16.Yndling / Mood Booster
ソロでドリームポップをやるミュージシャンが増えている昨今、YouTubeでもSpotifyでもオススメアルゴリズムが次から次へと知らないドリームポップ的ミュージシャンを紹介されるのだが、その中でこの北欧ポップス的な人懐こいキャッチーなメロディと多彩なサウンドプロダクションで飽きさせないYndlingが刺さった。この柔らかく包み込むような美しいサウンドと甘く切ない歌に、何度となくうっとりとした気分にさせられた。
『Mood Booster』レビュー
15.Francis of Delirium / Lighthouse
柔らかい歌声と大自然の風景を想起させる瑞々しいサウンド、そのピュアさと美しさが素晴らしかった。毒っ気がほとんどないにもかかわらず、真面目過ぎてつまらないという感じにはならず、程よくポップなメロディと程よいディストーションギターの刺激が心地よく染みわたる。晴れた青空がよく似合う普遍的魅力に満ちた良作だ。
『Lighthouse』レビュー
14.Julie / My Anti-Aircraft Friend
シューゲイズ好きだと言っている割にあまりシューゲイズな作品を入れていないのだけど、最近のシューゲイズバンド(いわゆるニューゲイズ)はイマイチに感じることが多いからしょうがない。そんな中で唯一ピンと来たバンド。グランジからIsn’t AnythingなMBVの影響が色濃く見られる攻撃的シューゲイズは、ポストロックや宅録オーバーダブ、エレクトロニカに依る静的なシューゲイズバンドが多い中、ライブ映えする動的なサウンドで好感が持てるし、ヴォーカルはエモエモしくなったり歌い上げたりしない男女混成の脱力系なのも良い。ジャリジャリしたディストーションのテクスチャーやフィードバックノイズの入れどころもわきまえてるし、気だるいテンションコードの響きやビターなメロディのダウナーさも心地よく、実に渋みの効いたシューゲ作品である。
『My Anti-Aircraft Friend』レビュー
13.Skee Mask / Resort
アンビエント色強めの今作も良かった。夢見心地なアンビエントシンセのトリップ感と肉体的なビートの共演。夜のリゾート地に吹き付ける涼しい風のような、爽やかな疾走感が心地良い。
旅行が趣味で、週末は仕事が終わった後の19~20時くらいから車で移動を開始し、渋滞エリアを抜けたあたりで前乗りの形で宿を取っているのだが、仕事のあとの無駄に高ぶった神経や疲労感を適度にやわらげつつも運転に集中できる心地よいリズムループが夜のドライブにぴったりで、このアルバムは非常に重宝した。ガチのアンビエントだと眠くなってしまうし、サイケデリックトランスだとアガりすぎるし、ちょうどいい塩梅なのである。
『Resort』レビュー
12.La Luz / News of the Universe
アメリカのバンドなのに何故か昭和感のあるレトロなサイケポップは、『しびれ』『めまい』の頃のゆらゆら帝国にも似たムードがあり、ノスタルジー込みの気持ちよさに包まれる不思議な音楽体験だった。とにもかくにも、ちょっとペンタトニック入ってる哀愁美メロと美ハーモニー、レトロスペーシーなシンセが心地よい。夜のチルタイムに頻繁に聴いたアルバム。
『News of the Universe』レビュー
11.Corridor / Mimi
シューゲイズ的なハーモニーと美メロ、ガチャガチャした機械的な電子音、仏語詞、ドラッギーな音色のサイケギター、ポストパンクやクラウトロックを思わす直線的リズムのリフレイン、これらの雑多な要素を融合、というよりはあまり混ざり合わない分離感のあるまま強引に一体としたような奇妙なバランスの上に成り立つ不可思議なサイケポップワールド。何度聴いても変なバンドだなあ、という印象が拭えないが、しかし何度聴いても飽きない中毒性も併せ持つ。色んなタイプの曲が収められているが総じて陽性のサイケデリアを立ち上らせており、大変心地よい。
後から見て知ったのだが、フロア録音のライブ動画では明確にサイケなサウンドになっていて、生で聴くとまた印象が変わりそうだ。ライブが見てみたい。
『Mimi』レビュー
10.Mdou Moctar / Funeral For Justice
このランキングを決めるのが冬なので、どうしても秋冬に沁みる曲が上になりがちで、レビューで夏に最適であるとしたMdou Moctarのこの傑作も当初ランキングの下位になっていた。しかし改めて聴いてみると、キンキンに冷えた冬でもなお血湧き肉躍る興奮のグルーヴと儀式めいたエキゾサイケなトリップ感は有効であることを発見。なんなら乾燥した空気感は冬の方がよりフィットするし、なんかあったまる気もする。今1番ライブで観たいバンド。
『Funeral For Justice』レビュー
8.The Smile / Wall of Eyes & Cutouts
ちょっとズルいが同率順位。甲乙つけ難いのだ。片方は世界観や叙情性に富んでいるがしっとりとしていてチルなムード、片方はグルーヴィーに踊らせてくれるが世界観や叙情性は希薄、そのどちらも両立させられることを我々はRadioheadを通じて知っているからどうしても悩ましく思ってしまう。これが2枚組であったり、1枚に纏まっていたら超名盤のたぐいである。でもまあレビューにも書いた理由で、その辺は仕方がない。
トム・ヨークはよくSNSを観察しているなと歌を聴いていて思う。歌詞における皮肉なディストピア的描写は実感としてすごく分かる。コロナ禍を経てこれまでのネットの住人とは違う、ネットの毒性に免疫を持たない今までテレビを見ていたようなマス層が大量に流入し、サイバー空間の有毒化と現実への悪影響が加速したと思う。重なり合うサイバーとリアル。アニメ『serial experiments lain』のような世界がもはや現出している。何が真実なのかも分からない。自分の取るにたらなさも突きつけられて自分を頼みにすることもできない。神様もいない。この先どうなるかもわからない。そんな根無草のような心の支えを失った喪失感、アンカーを失った漂流感が、コロナ禍に活動が始まったThe Smileの音楽にどうしてもリンクしてしまう。そして、このことは随分自分の気持ちを和らげてくれた。この何とも不穏な気持ちを分かってくれる人たちがいる、その事実だけで、幾分か安心して生きられるから。
『Wall of Eyes』レビュー
『Cutouts』レビュー
7.The Treedome / The Comfort in Being Sad
ジャズ・ソウルをバックボーンに持つギターポップバンドは基本的に好きなのである。日本でもネオアコやフィッシュマンズに影響を受けたバンドがよくそんな感じの音楽をやっていた。The Treedomesもまさに自分のピンポイントな趣味を撃ち抜いてくるサウンドなのだが、ジャズ・ソウル的なコード進行やリズムをよくあるオシャレで都会的な方向でなく、催眠的なドリーミーさや心地よい気だるさのほうに向けているところが独特だ。加えてヴォーカルのおっとりとした歌唱スタイルに被さってくる、時を超えて過去から響いてくるかのようなヴィンテージな激シブ管楽器の音色も実に良い。とにかく名曲「Flute」が刺さりました。
『The Comfort in Being Sad』レビュー
6.Everything Everything / Mountainhead
“グロース”(とあえてビジネスカタカナで書く)に偏執狂的に取り憑かれて心と身体を危険に晒す人々の物語を、過去イチオーソドックスな作曲で、より深く届ける。マスロックやR&B、エレクトロなどの要素を駆使したヒネリの効いたアレンジはあまり見られないが、これまであまりうまくいっていなかったミドルテンポの曲が秀逸で、アルバム全体が悲しみと優しさで包まれていて泣けてくる。ある意味、Everything Everythingの本質的な良さがあらわになった作品。
『Mountainhead』レビュー
5.Beth Gibbons / Lives Outgrown
漫画アニメゲーム大国の日本でエンタメ漬けになっていると、つい森羅万象をデフォルメ化してしまいがちだ。日本の二次元コンテンツの大半は10代前後のキャラクターが活躍するジュブナイル的作品で、若者は当然として中高年もその世界観に入り浸るのが普通である。しかしながら人生いつかは、家族との死別、自身の肉体・精神の衰え、社会の変化に適応することへの困難さ、経済、様々な負の変化が訪れ、ポップでデフォルメ的ジュブナイルとは対局の老いていく憂鬱へリアルに直面せざるを得なくなる。無理に抗うのでなく、逃避するでもなく、誠実に人生の苦難のかたちを確かめて、静かに受け止めていく『Lives Oupgrown』の凛々しさがいたく沁みる。不気味だが美しく、そしてなぜか心が落ち着く、今後何年も聴き続けていくであろう名盤である。
『Lives Outgrown』レビュー
4.Geordie Greep / The New Sound
The Mars Volta『De-Loused in the Comatorium』、Mew『And the Glass Handed Kites』、Mansun『Six』、Doves『The Last Broadcast』など、オルタナティブロックの人たちが作る壮大なプログレアルバムが大好物なのだが、昨今はサブスクによる音楽の時短志向で大作が生まれづらい傾向があるように思う。そんな中、前述したバンドの名盤以上に聞き応えのあり過ぎる超大作を作ってくれて本当にありがたい。ガチプログレのように映画のサントラのようではなく、ちゃんと1曲1曲歌になっているから、1曲ずつ取り出して楽しむも良し。しかし作業BGMとしては機能しません。頭がパンクします。聴くなら真剣勝負である。
『The New Sound』レビュー
3.English Teacher / This Could Be Texas
長年音楽を聴いてきてヒネくれてしまったのか、流行りのインディロックいいとこ取りな音楽性は「しばらく経つと聴かなくなるトレンドフォロワー的な作品なんじゃないか」という疑惑をどうしても持ってしまい、この作品の評価にもかなり慎重になっていた。しかし「The World’s Biggest Paving Slab」のポストパンクとドリームポップの合一や「R&B」の歌詞の切れ味もさることながら、「You Blister My Paint」「Sideboob」での美しさには芯があり、何度も聴くうちにすっかりハマってしまった。初期のプログレッシブなアレンジのギターロックは今作ではあまり見られなかったりもして、まだまだ豊富な引き出しがありそうなバンドなので今後も期待である。
『This Could Be Texas』レビュー
2.Crumb / Amama
作品のスケール感を考慮するならば他にも良い作品はたくさんあるが、単純に「好き度」で見ると、Crumbの『Amama』は他に変え難い魅力を豊富に備えていた。高熱にうなされ真夜中に朦朧としながら目が覚めた時に鳴っている音楽というか、リラ・ラマニの絶妙に気だるいメロディと歌声、知ってるような知らないような風景のなかで脈絡なく場面が変わっていく「変な夢」のようなアレンジ、不穏さを秘めているが逆説的になぜか気持ちが落ち着く感覚。新しい知覚を与えてくれるこのサイケデリアは唯一無二だ。特に今作はいつも以上にアルバムとしての完成度が高く、中毒性も抜群だった。
『Amama』レビュー
1.The Marías / Submarine
ドライブで、電車の中や街中で、部屋での作業音楽で、時と場所を問わず今年1番聴いた作品。甘いメロディ、ソフトなヴォーカル、とろけるようなサウンドに程よいグルーヴ、程よいエキゾチックさ、最近の自分の好みを具現化してくれたようなドリーミー・ネオソウル・インディポップ。評論家に好まれる同時代性はあまりないのかもしれないが、10年後20年後も聴いているのは実はこういう普遍性の高いポップスだったりする。旅先の風景、暑過ぎた夏、聴くと色々な今年の思い出が脳裏に浮かぶ名作だ。
『Submarine』レビュー
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