
そんな感じで音楽的な側面だけでノリ良くレビューを終わらせたいところではあるのだが、ピュアなパンクバンドであればあるほど、やはり歌詞にも注目せねばなるまい。
基本的にはジェンダーにまつわる諸問題がテーマというか怒りの源泉となっており、イギリスで発生した警官による女性暴行殺人事件を扱う「Bad Apple」、ホワイトカラーのオフィス空間のセクハラ的・男性優位的な人間模様を描く「Company Culture」、女性を常に性欲消費対象としか見做していないような自分本位の男性への痛打「Big Dick Energy」と、男性リスナーとしてはヘラヘラしながら呑気にヘッドバンキングしていていいとのかと考えさせられるメッセージ性を続けざまに叩きつけられる。しかし怒りの矛先はそれだけにとどまらず政治経済やセレブリティにも及んでおり、ケイト・モスの問題発言「Nothing tastes as good as skinny feels(痩せてるほど美味しいものはない)」を文字った「Nothing Tastes As Good As It Feels」では女性の摂食障害や過度なダイエットによる健康被害にブチ切れ(ダイエットドリンクなんて完全にクソみてえな味だわ、脂肪分をたくさんくれよクソ野郎、炭水化物を食べさせろや!のラストが痛快すぎる)、地価上昇や再開発事業により弱い立場にある人たちが追い出されコミュニティが破壊されることを糾弾する「You’re Not From Around Here」、裕福な家庭で育った2世ミュージシャンが労働者階級に寄り添ったフリをする偽善アートに激怒する「Filthy Rich Nepo Baby」あたりは、性別も国も超えて共感出来る憤慨である。さらには発達障害の生きづらさを告白し「なんで私はうまく溶け込めないんだろう、なんでじっと座っていられないんだろう」と、怒りとは違う方向の内面をぶつけてくる深い曲「Special Different」もある。ここまで書くとアルバム全編が怒りや嘆きに満ちた法廷闘争のようなムードに包まれていると思われるかもしれないがさにあらず。そのほとんどが、豊富なボキャブラリーを駆使したブラックなユーモアが効いており、全体的にはアッパーで賑やかなパーティ感が横溢しているのがまた好印象だ。ムカつく奴らをブッ飛ばしながら飲めや歌えやのドンチャン騒ぎをしているような、29分間のカタルシスの大行進である。
曲名から歌詞から過激さのオンパレードなのでとても万人ウケすると思えないし、日本のツイッタラー、じゃなくてエックサー?の性質を考えるとすこぶるウケが悪そうであるが、パンクスなんて世の中のマジョリティの眉を顰めさせてナンボなので、そうなればむしろよろしい。ああでもそれだと日本へライブに来てくれないな。難しいな。Lambrinh Girlsについてヤキモキすることがあるとすれば、現状はその1点である。
痛快極まる傑作デビューアルバムだ。
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