Mogwai / The Bad Fire(2025)

新譜

2006年の『Mr.Beast』以来、約20年ぶりにMogwaiの新譜を聴く。Mogwaiはその間にサントラも含め精力的に活動していたようだが、私の方が音楽ファンとして精力的ではなかった。2015年にギタリストのジョン・カミングスが脱退し4人になっていたり、前作となる2020年の10thアルバムがUKチャートで初めて1位を取ったことなども知らなかった。そんな中、YouTubeのアルゴリズムで突然、アルバムのリードシングルとなる「Fanzine Made of Flesh」がサジェストされ、あまりの変わりように良い意味で驚愕し、久しぶりに聴いてみようかと本作に興味が出た次第である。
私が聴いていなかった期間の作品もざっとおさらいしたのだが、特に7枚目『Hardcore Will Never Die, But You Will』以降は、いかにしてバンドの音楽性をより開かれた大衆的な方向へ拡張するかという試みが続けられていたようで、前作でその成果がチャートにも現れた格好だ。今作はその上で、さらにMogwaiの音楽性を分かりやすく、ポップに突き詰めたエネルギッシュな内容となっている。
『Rock Action』の頃から導入されているシンセサイザーやヴォコーダーを使ったエレクトロニカな要素も、ここへきて曲構成が歌モノとなったことで完全にエレクトロポップとして自然に、かつ堂々と鳴り響いているし、「Pale Vegan Hip Pain」などのインスト曲でも、ギターがしっかりと歌うようにメロディを奏でており、以前のように、主旋律のないリフやアンサンブルを主体にした通向けの聞かせかたではなくなっている。その極地が、日本式に言えばAメロBメロサビ、という堂々たる三段構えの歌モノシューゲイズ「Fanzine Made of Flesh」である。
この曲をはじめとして、今作はシューゲイズな曲が多いことにも注目である。初期から影響を隠していなかったがここまでストレートなのは今までなかったサイケデリックシューゲイズ「18 Volcanos」でのマイブラ感や、ニューウェーブなエレクトロ感が優先しながらもヴォーカルがしっかりシューゲな冒頭曲「God Gets You Back」でもそれが確認できる。またシューゲイズとは少し違うが、シンセノイズとギターが渾然一体となったメロディアスで陶酔感のあるモダンなサイケポップ風インスト「Hammer Room」は新味で、面白い。
もちろんMogwaiらしい静寂から轟音へ上り詰めるインスト曲「If You Find…」もある。さすがに初期作のような緊張感や爆発力は薄く予定調和的ではあるが、ポップな手心が加えられて聴きやすくなっているのは新規リスナーにとっては良いかもしれない。

初期作のファンとしてはやはり、静寂のなかに響く神秘的なギターアンサンブルやトランシーなリズムループ、そしていつ爆発するともしれない暴力的な轟音を待つ緊張感、それらの極大と極小を行き来する劇的な音空間のスリルを期待してしまうので、少し物足りなさを感じるところはあるのだが、従来の路線ではなくポップに突き詰めた曲が面白く、同時にシューゲイズ作品として聴くことも可能な内容であり、全体的に曲のバリエーションが非常に多い、楽しい作品であると感じた。
Mogwai作品はライブで聴くと全く印象が変わることがしばしばあるので、このアルバムもライブであの暴風のような音圧を浴びればまた少し違った印象になるかもしれない。来日があったとしても、もはやなかなか高額で行けないのだけれども……。

評価:★★★☆ 7/10

コメント

タイトルとURLをコピーしました