
私を一気に引き込んだ表題曲「Eusexua」の恍惚とした美しさや、「Drums of Death」の攻撃的なグリッチサウンドのカッコ良さは特筆すべきものだが、全体の内容も素晴らしい。序盤のダンスポップな「Girl Feels Good」「Perfect Stranger」、性急なビートが焦燥感を掻き立てる「Rooms of Fools」など、音楽性はY2K的というか、90〜00年代のクラブサウンドで彩られており、ところどころ懐かしく、また似たようなサウンドを志向したCaroline Polachekの近作も彷彿とさせる瞬間もある。また、心がボロボロになっているかのような切実なVoから凛々しいファルセットのコーラスへと移行する表現力の幅に圧倒される「Striptease」は、心身の内側まで曝け出したい欲求とその危うさ、それを受け入れる覚悟をした生命としての美しさを感じさせる曲で、生命力の不気味なイメージを沸き起こさせるMVとともに鳥肌ものだ。アルバムの最後の「Wanderlust」の浮遊感のあるドリーミーなアウトロも秀逸で、魂の放浪者となりEusexuaの世界へ旅立つ至福のクロージングである。
さて、問題はカニエの娘である。神秘的な作品世界に突然溌剌とした調子で「私のナマエはノースチャン カルフォルニアから東ッ京ッ!」という珍妙な日本語ラップが割り込んでくる「Childlike Things」の、このキツめのスパイスに最初は面食らった。MVでは、おそらくラッパーとのコラボが多数含まれていた前作の批判に対する不満が挿入されていたりと、Twigsさんの中で思うところがあってのことかもしれないが、多神教の価値観がベースにある国の言語で唯一神を賛美するゴスペルラップを行うという滑稽さも相俟って、この曲は聴くたび笑ってしまう。しかしこの曲が、子供の頃の大きな夢や万能感を表現している歌だと知るとなかなか味わいが深くなる。まあそれでもノースちゃんのパートは日本人としてはギャグな感じがどうしても抜けないが、シリアス一辺倒ではなくひとふりのユーモアがあった方がアルバムの印象が華やかになるし、今作のポップで高揚感溢れる印象はこの曲なしでは語れないものになっていると思う。
正直にいうと、このアルバムですっかりTwigsさんにハマり、過去作も聴き込んだがそれぞれ素晴らしい。「Eusexua」以前にも、よく名前を目にするので何回かは試聴していたはずなのだが、冒頭で述べたような誤った認識もあって結果的に見過ごしていた。今ではなぜなぜそこで引っ掛からなかったのか不思議なくらいハマっている。それくらい、やはり広範なリスナーを獲得するために「入口」は重要なのだ。このアルバムはキャッチーさやノリの良さがとてもオープンなムードを醸し出すと同時に、FKA Twigsの良さもしっかり表現できている、今までFKA Twigsに興味のなかった層にも刺さる「入口」として素晴らしいポップ作だと思う。
OLのTwigsさんから暗黒女神なTwigsさんに豹変する瞬間が何度見てもカッコイイMV。しかしオフィス空間の無機質で陰鬱な感じは万国共通ですな。