Vinyl Williams / Opal(2018)

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Vinyl Williams Opal
 Vinyl Williamsの作品はどれもクオリティが安定していて、音楽性も劇的には変わったりしないため、甲乙つけがたいところはあるのだが、一番好きなアルバムを選べと言われたら、私はこの4thアルバム『Opal』を挙げる。

 初期はシューゲイズやチルウェイブをバックボーンにしたネオサイケデリアだったが、このアルバムからはジャズやソウルのニュアンスの濃いスピリチュアルなサイケポップという方向性にシフトし、歌がしっかりと響くようになっている。ただポップになったのは骨格だけであり、表現性はいささかも大衆迎合的にはなっておらず、ひたすらジ・アザーサイドへとブレイクオンスルーすることを誘ってくるところはさすがである。コード進行は予測を逸脱してファンタジックな異世界へ迷い込むし、歌とメロディは甘美過ぎてドラッグのように気持ち良い。そして歌を取り巻くサウンドはしっかりとシューゲイズやドリームポップの奥行きを備えていて、異世界への没入感や陶酔感は抜群。加えて歌詞でも、シュールな心象風景とともに怪しげな哲学用語やスピリチュアルなメッセージを、口ずさめるくらいのキャッチーさで届けてくれる。CDのハイプステッカーには「Celestial Pop」(天国のポップ)との惹句があったが、まさに我が意を得たり、である。

 とにかくVinyl Williams屈指の名曲、2曲目の「Noumena」が好き過ぎる。「君の脳に自由なデザインを許可して/内なるエーテルマインドを開くため/言わなきゃいけない、僕たちにはチャンスがある/僕たち全員を本物のヒプノティック・トランスへ導くため」というスピリチュアル宣言をする歌い出しから、あまりにもうっとりとさせるプレコーラスのメロディにより、心の中にある美しくそして懐かしい幻想世界を目の前に燦然と展開してくれる。
 さらに4曲目、コード進行が解決しなさそうでところどころ気持ちよく解決する、妙な快感のある「Lansing」もクセになる曲で、レトロな加工が施されたサイケなMVも、80年代の「みんなの歌」的な不気味さがあって凄くいい。「空から薬が降ってくる」のラインと、どこに行き着くのかわからない自由なアレンジが印象的な「Aphelion」や、アップテンポなリズムと甘美なメロディに載せて「プライマ・マテリア」といった哲学用語をキャッチーに届ける「None With Other」など、終始どこへ連れていかれるのかとワクワクさせられる魅惑的な曲が連続している。歌とサウンドプロダクションのバランスも良い、傑作である。

 ここまで非現実的な世界観だと閉鎖的に感じそうなものだが、全体的に前向きでオープンな雰囲気があるのは、「夢の中に引きこもるのではなく、頭の中にある夢の世界で現実を塗り替えてやろう」という力強いメッセージ性があるゆえか。しょうもない現実世界にウンザリして皮肉や悲観でお茶を濁している私は、創造性や神秘の世界を高らかに歌い上げるこのアルバムに、いつも勇気づけられる。もっと多くの人に聴いて欲しいアーティストである。

評価:★★★★☆ 9/10