
今作の面白い点は、ヒップホップ的な要素を包み込む神秘的なコーラスワークや、リバーブの効いたドリーミーでチルなサウンドである。自分にはドリームポップとヒップホップが混じり合っているように聴こえる。前作と比較しても音楽性はガラッと変わっており、緊張感が張り詰めたヴォーカル主体のサウンドプロダクションから、軽やかなサウンドとリズム、そしてフックを伴ったポップでコンパクトな曲構成になっている。これがとても聴きやすい。しかも、なかなか飽きの来ないつくりにもなっているのである。
曲中・曲間問わず全体にわたって会話(おそらくTwigsさんの交友関係の人々)のサンプリングが挿入されているのだが、雑然としているようでなかなか緻密に作られており、無造作に会話が挿入されているように見えて、要所要所で会話とリズムの重点がシンクロしたり、曲の雰囲気に合わせたセリフや声色が使われていて、にぎやかなアルバムの場面の切り替わりを、幕間曲のようにシームレスにつないでいる。気楽に作るはずのミックステープらしからぬ手の込みようである。
また、この作品がコロナ禍に制作されたことを踏まえてこの会話パートを聴くと、「遠くへ引き剥がされしまった愛おしい日常、その記憶の断片を、懐かしみながら一つずつ大事に拾い集めている」という癒しの演出のように聴こえ、音楽とも相まって感動するつくりである。
また、大勢のコラボミュージシャンの参加(有名どころからロンドンのマイナーなミュージシャンまで)によりとても賑やかな印象になっているのもこれまでと違うところだ。おまけに曲によってジャンルはコロコロと変わっていくし、リズムが強調されたノリの良い曲も多い。Twigsさんにつれられて、いろんな人たちが集まるパーティを一緒に楽しんでいるかような、開かれたムードが満ち満ちている。
ドリームポップ好きとしてはやはり、あまりに美しいメロディで胸が苦しくなる「Meta Angel」が好き過ぎるし、夜のまどろみの世界のようにメロウな「Oh My Love」もたまらないのだが、トライバルなヒップホップ「Honda」もカッコいいし、レゲエのノリが陽気な「Papi Bones」やラテンな泣きメロが印象的な「Jealousy」も耳から離れない。The Weekndをフィーチャーした美しいオルタナティブR&B「Tears In The Club」も名曲である。さらにラップやハイパーポップも織り交ぜてくるバラエティの豊富さで、これだけ賑やかだとさすがにとっちらからりそうな気もするが、前述の会話パートに紡ぎ合わされたこの作品はしっかりとコンセプトに統御されており、散漫な印象は与えない。さながら群像劇のドラマのようにアルバムは進んでいき、場面は徐々に深くへ、プライベートなところへ、落下する羽のようにふわふわと舞い落ちていく。占星術師のポジティブな占いに導かれるように、最後はTwigsさんのインナースペースのような空間で「死にたかったよ、正直に言うと」という極めて繊細な告白から、愛に支えられて自分らしくられることに感謝を伝える「Thank You Song」で消え入るように終わっていく。聴き終わった後のこの満足感とやわらかな気持ちは、何物にも代えがたい。
個人的にはTwigs作品の中で一番好きなアルバムだ。