シングルレビュー2025年4月

新譜
4月も続々と新曲がリリースされていて、予想してなかったバンドがアルバムリリースを発表するなど、聴きたい新譜が詰みあがって可処分時間を圧迫している。嬉しい状況ではあるが、ほんとは過去の音楽にずっと浸っていたいんだよな、と思いつつ本年も昨年同様忙しいリスナー生活を送っている次第。

Wet Leg / Catch These Fists


待望のWet Leg新曲であるが、リアンがプロレスラーみたいな風貌で登場してきてビックリした。さらっとイギリスの若者の間で問題になっているらしいケタミンについても触れながら、クラブで近寄ってくるキモいナンパ野郎を撃退するパワフルな歌詞で、少しダークになってる感じはあるが音楽的には今のところ1stの頃とそれほど変化はなさそう。UKのバンドでよくある2ndが難しくなるタイプの売れ方してたのでここ最近の沈黙に心配していたが、とりあえず元気そうでよかった。7月に2ndアルバム『moisturizer』がリリース。

The Marias / Nobody New、Back To Me


コーチェラの配信を楽しみにしていたところ突如リリースされた2曲。単発のシングルか、前作のアウトテイクか分からないけど、どちらも良曲。特に壮大なロックバラード「Back To Me」は、ライブでの勢いを音源に持ってきた感じで、スケールの大きいThe Mariasの世界を聴かせてくれる。コーチェラも良かった。ベストアクト。

L’Eclair / ODESSOS、Vertigo


スイス・ジュネーブ拠点のスペーシーサイケバンドL’Eclairのシングル2曲。最近コラボのシングル曲をコンスタントに出しているがアルバムでも出るのだろうか。ここ最近はエレクトロになっているが、トライバルなリズムとスペーシーなのは相変わらずで、気持ちいい音空間を錬成している。

She’s Green / Figurines


2022年のシングル「Smile Again」を聴いて以来注目しているミネアポリスのシューゲイズ/ドリームポップバンドShe’s Greenだが、この新曲は昨今増殖中の同ジャンルのバンド群からブレイクスルーする可能性を秘めた強力な曲である。Voゾフィア・スミスの透明感あふれる伸びやかな歌声もいいが、特に最後のディストーションギターが唸りを上げノイズの壁を作る展開はシューゲイズの定番ながら圧巻。素晴らしいバンド。

Mark Pritchard, Thom Yorke / Gangsters


またトムがなんかやっとんな、とちょっと前から立て続けにリリースされていたシングルをチェックしていたが、そもそもMark Pritchardって誰だっけ、と思ったらその昔Chapterhouseのリミックスアルバムを作っていたGlobal Communicationの人だった。不気味なIDMサウンドと幽霊のようなエフェクトが加えられたトムのいびつなヴォーカルが何とも言えない気持ちにさせるが、Youtubeミュージシャンのバーバパパみたいな毒々しいMVにより不穏過ぎる世界観が鮮やかに具現化してしまい、もはや苦笑いするしかない。アルバムも聴いてみます。

Kokoroko / Sweetie


ゆったりしたグルーヴが心地よいアフロジャズ。ロンドンのバンドだが、サウンドにはしっかりとトロピカルな暖かい風が吹いている。良きバイブスである。

Azymuth / Andarai


トロピカル2連発。というか、え、新曲なの?と驚き、聴いてなおびっくり、最近よく聴いている『Outubro』あたりまでの初期の曲っぽすぎて、オリジナルメンバーも1人しか残っていないのに、これはどういうことだ。と訝しんだところで、ほんとに新曲で、現在のメンバーで作られた曲のようだ。ブラジルのレジェンドフュージョンバンドAzymuthのデビュー50周年の今年リリースされるアルバムからのリードシングル。まあベースはオリジナルのAlex Malheirosなので、この小気味良いスタッカートの効いたスラップベースが昔のままなのは当然である。

Pami / Kiss Me Blue


こちらはアジアから南国の風を届けてくれるタイのPamiの新曲。最近のタイの音楽は非常に好みで、シティポップやシンセポップなどの80’sポップスだったり、YonlapaやSoft Pineみたいなインディバンドもいて素晴らしい。いっぽう日本のタイ料理屋に行くと普通にコテコテなタイの歌謡曲(でも突然ラップがカットインしてきたりする)がかかってたりしてるので、インディとメジャーでだいぶ状況が違う様子。このあたりも音楽シーンの発達が窺い知れて面白い。
どうでもいいことだが、最近日本の魚醤をナンプラーがわりにしてカオガパオが作れることを知り、得した気分になっていたりする。ナンプラー高いのよ。

53 Thieves / Outside


FKJとかGarden City MovementにハマったていたときにYouTubeにおすすめされて知ったバンドだけどこういうのはなんて呼べば良いのだろう、プロデューサーアーティスト的な? チルでメロウなエレクトロソウルR&Bという感じ。今まで素性もよく分からず聴いていたので、この新曲を機にちゃんと調べてみたが、ドイツの4人組、と言うことくらいしか分からなかった。音もしっかりしているし、もっと情報が出てきても良さそうなもんだが。

Orange Flavored Cigarettes / Cici


韓国屈指のドリームポップバンド。もう良いとしか。

Squid / The Hearth And Circle Round Fire


アルバムのアウトテイクとなった実験的な曲。オリーのシャウトと寝言のようなつぶやき、不気味な電子音と美しいクラシックな楽器、これらが入り混じる『Cowards』のサウンドのエッセンスそのもののような曲で面白い。

TOPS / ICU2


コーチェラのライブも良かったTOPS、地元モントリオールのArbutus Recordsを離れ、川を遡って五大湖沿岸のアメリカ・ミシガン州のレーベルGhostly Internationalと契約し新曲発表とのこと。GhostlyといえばLusineとかCom Truiseなどのエレクトロなレーベルという印象が強く意外だったが、まあなんにせよアルバムを出してくれそうで良かった。
MVは彼らの80’s趣味がよく分かるのだが、さすがにもう少しカッコよくしても良かったのでは……。

Steleolab / Aerial Troubles


最後は突然といった感じで、15年ぶりのアルバムがリリースされたStereolab。私は『Margerine Eclipse』までしかフォローしてなかったので、ほんと久しぶりである。彼らが(音源リリース的に)不在の間、インディポップの界隈ではStereolabの影響をストレートに出すバンドが増えていたが、本家本元は実にStereolabらしいメロディとあまりStereolabらしくないシャキシャキした電子音という懐かしさと新奇性を合わせ持った曲を引っ提げて戻ってくる貫禄を見せてくれた。
最近ずっと感じているのだが、90年代くらいにデビューしたオルタナティブ系のバンドは、歳くってベテランの域になってもなお、現在の新人バンドよりも新しい感じの音を鳴らしている。聴いたことのない音楽を作りたいという情熱を持ったバンドが、確かに昔は多かった。00年以降のリバイバル系ブームからは引用芸が多用されるようになり、音を聴いて新しさを感じることが少なくなってしまった。それはそれで面白く楽しめているのだが、やっぱりこの次どんな音が耳に飛び込んでくるのだろうというワクワク感が嬉しい。アルバムも聴き込みます。