
この作品の魅力は、ダンサブルなグルーヴと、スペクタクルに満ちた音の旅である。ベースのリフをモチーフにして徐々に加速するグルーヴが、都会の街中から夜景を見下ろすように舞い上がり、さらに宇宙まで到達する。熱を帯びながらも同時にクールなハービーのキーボードもカッコ良すぎるが、中毒的で推進力のあるぶっといベースがやはり強力に耳を惹きつける。1曲目「Chameleon」は最初こそのっそりとしたノリで始まっていくが、中盤からハービーのキーボードが駆け巡るようになるとクールさとスピード感が増していき、12分あたりからのクライマックスを重ねに重ねてグルーヴがどこまでも強まっていくところは自然に身体が動くし、今の感覚で聴いてもめちゃくちゃカッコいい。続くハービーの代表曲「Watermelon Man」のひょうきんなアフロファンクバージョンも良い息抜きで、スローでユルいグルーヴが高揚感のある演奏のあとの絶妙な箸休めになっている。B面1曲目の「Sly」は「Chameleon」以上に起伏の激しい曲で、じっくりムードを作る前半から、2分あたりで場面転換、サックスやキーボードがカオティックに駆け回るスペーシーかつスリリングな展開が続き、9分くらいに到達する熱狂的な演奏は鳥肌が立つほどカッコいい。最後の「Vein Melter」ではこれまでの展開で高まった熱を冷ますようにムーディー&チルでやさしく終わっていく。1曲のなかでも激しい起伏があるが、アルバム通しても色々なサウンドスケープを見せてくれる展開で、音楽史に残る超名盤である。
昨今、インディポップやオルタナティブロックがジャズ、ファンク、アフロビート、ラテン音楽などを取り入れて面白い作品を作る事例が増えているが、まさにそのお手本になっているものの一つというか、王道的に分かりやすく、かつ中毒的なエネルギーを秘めた、時代を越えるサウンドだ。ロックやポップの領域の作品はこれまでさんざん聴き倒してきて、もう学生の頃ほど刺激や感動を得ることも無くなって若干物足りなさも感じていたところだが、ここでジャズやファンク、またその周囲に広がるソウル/R&Bの未知の世界に踏み込めたことは喜びであり、ロックの名盤級の作品で得られたものと同じようなレベルの感動をこれからたくさん体感できると思うと嬉しい限り。最近は新譜もそこそこにずっと「レアグルーヴ」と呼ばれている界隈を夢中で掘り続けている。
音楽はまさに一生を費やせる趣味である。
蛇足ですが、ジャケットも最高にカッコイイ。