
そんな期待はアルバムの前半で極限まで高めてくれる。「MY KZ, UR BF」では、複雑なリズムと緻密なアンサンブル、さらに心象風景をランダムにコラージュしまくったような奇妙な歌詞、それをメロディにぎゅうぎゅうに詰め込んだ密度の高いジョナサン・ヒッグスの早口なヴォーカル。これらが絡み合う玄人向けな曲構成にも関わらず、耳障りは極めてポップ。開幕から新人らしからぬハイクオリティなサウンドで驚かせると、続く「Qwerty Finger」では一転、直線的なポストパンクのノリで始まり、かと思えば途中で展開がガラリと変わりシンセが煌めくエレクトロなサウンドへ移行。さらに「Schoolin’」では、Baジェレミー・プリチャードのむず痒くなるようなベースラインがうねるヒップなグルーヴに、これまたクセのある語感と意味不明な内容でまくしたてる圧倒的な情報量の歌詞で個性の強さを見せつける。ここまでの高揚感を冷ます箸休め的な4曲目の「Leave The Engine Room」で、「お、お前らRadiohead好きなんだな」とようやくストレートにバックボーンが見える曲が出てきて(そもそもバンド名も「Everything in Its Right Place」の歌い出しが由来)少し安心するも、前半の〆となる「Photoshop Handsome」では、ギラギラしたシンセのデジタルサウンドと転調だらけのトリッキーなコード進行を乗せて、Drマイケル・スピアマンによる行進曲のような四つ打ちビートが煽りに煽る展開に再び大興奮させられる。
ちなみに初めてこのアルバムを聴いた時の率直な感想は「Animal CollectiveとBattlesとRadioheadとXTCをミキサーにかけて、取り出したものにダンス/エレクトロな味付けをした変態ポップロックバンド」であった。多大なる期待をしていたのである。
しかし、興奮のピークはこの「Photoshop Handsome」で、アルバムの後半は比較的オーソドックスな曲が多く、あまり盛り上がらないまま終わっていく。後半にも「Suffragette Suffragette」などカッコいいシングル曲があり、1曲として聴けばそれぞれよく出来てはいるのだが、いかんせん前半に盛り上がる曲が集中し過ぎており、アルバム全体でのバランスが悪くなっているように感じる。後半にも前半の高揚感が蘇るような曲が配置されていれば、または何曲か削って興奮が冷める前にアルバムを締めくくるなどしていれば、UKロック史に残る名盤になり得たのではないかと思う。非常に「惜しい」感じのする作品だ。(そもそも超名盤を作るとたいていバンドは解散してしまうので、そうするとその後にリリースしているあの曲やあのアルバムが楽しめなかったということになるから、これで良かったとも言える。)
とはいえ、アルバム前半の曲、特にシングルになっている「MY KZ, UR BF」「Schoolin’」「Photoshop Handsome」のカッコよさは半端じゃなく、今でも繰り返し聴き続けているくらい好きな曲で、間違いなく彼らの代表曲である。これらの曲にピンと来たならば、他の作品を聴いても楽しめるはずなので、EEを知らないリスナーがいたら、まずはここから試していただきたい。
彼らの作品の中で最もカッコイイMV。こういう創造性あふれるMVを見れるのが、洋楽の1つの楽しみでもある。
「Photoshop Handsome」のMVは2種類あって、こちらはギタリストが現在のアレックス・ロバートショウになってからの2010年ヴァージョン。「MY KZ, UR BF」と「Schoolin’」は曲、映像ともにカッコイイ路線だが、後の彼らのキャリアを見ると、このMVの気持ち悪さと曲のポップさが、むしろEEの本質であるように思われる。ちなみにこのMVはVoのジョナサンがディレクターを担当。