
端的にいえば、Mooseがシューゲイズバンドとして紹介されることのミスマッチである。彼らが実際シューゲイズ的な曲を作っていたのはこのデビューアルバムより前、コンピレーションアルバム『Sonny & Sam』にまとめられている初期のシングル曲のみである(近年再発されているCherry Red版の『…xyz』ではボーナストラックとして収録)。しかもその初期の曲にしても、ストレートなシューゲイズではなくネオサイケデリア、エクスペリメンタル・ポップ、ガレージロックなどと混然一体になっているもので、シューゲイズとしても変わり種であった。さらに本作『…xyz』では、My Bloody Valentineが歴史的名盤『Loveless』でジャンルの極点に達してしまった後ということもあるのか、早くもギターノイズや過剰なエフェクトといった要素を廃した脱シューゲイズな内容となっており、シンプルな80’s系ギターポップにほんのりと残存しているサイケデリアを隠し味に添えた「変わり種のインディポップ」といったサウンドへと移行。個人的に、彼らの音楽性をカテゴライズするとしたら「サイケポップ」とするのが正しいと思っているのだが、では本作がサイケポップ好きの人に刺さる内容かというと、後述する理由でそうでもないのがこのバンドの難しいところである。
本作は全体的に80’sから続くジャングリーなギターを特徴としたインディポップ(ネオアコやThe Smithsなどの流れ)をベースに、ストリングスやフルートといったクラシカルな楽器が鳴り響く優雅なサウンドが展開されている。そこにK.J. “Moose” McKillopによるサイケデリックで実験的なギターサウンドが非常に控えめにまぶされて、陽光が差し込む森の中のような陽性のサイケデリアがうっすらと漂う仕上がりとなっている。ハネるリズムが軽快だがコード進行やアレンジには不思議の要素が醸し出される「Little Bird」は実にMooseらしい良曲だし、イントロの口笛がキャッチーでつい真似してしまう「The Whistling Song」やThe Cranberriesのドロレスがサポートでコーラスを当てている「Soon Is Never Soon Enough」も耳を引く。後の作品につながるドリーミーな「High Flying Bird」や初期のサイケデリックさが唯一色濃く出ているシュールな展開の「Screaming」はこのアルバムの核ともいえる聴きどころである。しかしながらそれ以外の曲はシンプルさ故かあまり印象に残らず、全体として薄味の感じが否めない。本作が傑作であると見る向きもあるが、初期のエクスペリメンタルな変わり種シューゲイズや、後のシュールなドリーミーサイケポップと比べると、ヒネリや意外性がなく非常に真面目な感じのする本作は刺激に欠け、ブリットポップほどポップでもないし、サイケと言い切れるほどサイケデリックでもない。今聴くと中途半端な印象が勝ってしまうのだ。個人的には、もう少し2ndや3rdのような奇妙な世界観が濃く表れていれば良かったのにな、と思う次第。
MooseはHut Recordsからデビューして、本作もHutからのリリースである。Hut Recordsといえば、The Verve、Gomez、The Musicなど、クセの強い実力派若手バンドを発掘した90年代から00年代初頭のUKロックにおいて重要なインディレーベルであるが、この後彼らはHut Recordsを離れ、現在PIASとして知られるベルギーのPlay It Again Samに移籍し、矢継ぎ早に2ndアルバム、3rdアルバムと、時流を無視したかのような独自の世界観を追求していくことに。彼らのキャリアを通して聴いたときに1stアルバムだけ少し固い印象を受けるので、もしかしたら本作の制作でレーベルと何かあったのかなという気もするが、それは憶測なので本当のところは分からない。いずれにせよ、K.J. “Moose” McKillopの創造性あふれるギターはシンプルであるよりも実験的でひねくれていた方が面白く、それは現在のMiki Berenyi Trioでも感じられるところだ。本作は持ち味であったノイズやエフェクトを封印したことで、彼らの良さが分かりづらくなっている少し勿体ない作品であり、最初に聴くにはお勧めしないが、もちろん前述したように良い曲もあるし、入手困難な『Sonny & Sam』が入っているヴァージョンなら買って損はないと思う。
Mooseは当時から過小評価されていたこともあってか、MVがネット上にほとんど残っていない。サブスクもあったり無かったりで、このアクセスのしづらさも再評価気運の高まらない所以である。非公式な動画はあまり使いたくないが(いつの間にか消されてしまうし)、このチャンネルは昔からMooseの貴重な動画のみを扱っていて今なお残っているので使わせていただく。当時の彼らの様子と、特異な美的センスが伺い知れる貴重なMVである。