
アルバム前半は割と抑えめの展開で、レトロな80’sシンセが懐かしい「To Easy You」に始まり、ピッチの揺らぎがほんのりとサイケデリアを帯びる切ない「Hard To See」まではノスタルジアの霧の中に包まれる。ソフトにファンキーなベースが引っ張るMen I Trustらしい4曲目「Ring Of Past」から徐々にスピード感が増していき、先行シングル「Husk」以降はいよいよギターが曲の前面に出てきて、今まであまり彼らがやってこなかった80’sインディギターロック的なサウンドへとバトンタッチ。The Smithsを思わせるギターアルペジオが耳に残る「Where I Sit」、ポップス界隈でよく聴くコード進行ながら、絶妙に枯れた感じのギターポップ&シンセポップのアレンジが切ない余韻を残す「In My Years」、直線的で前のめりなポストパンク調のリズムで加速していく「Billie Toppy」、さらに過去最速レベルのBPMで、歌詞では皮肉にも身を滅ぼす過剰さへの警句をクールに歌う「Worn Down」と軽快な足取りで駆け抜けていく。クライマックス感がないので、先ほども書いた最後の短いアウトロ「Eris(Wait)」に至ると「あれっ、もう終わり?」という感じになるが、心地よい風とスピード感を楽しみながらあっという間に目的地に到着する、まさに「ウマ」に乗っているかのような快適な音の旅である。
何度聴いても、特に緊張感や高揚感もないままにアルバム1枚聴かせてくるのが不思議な感じだが、エナジーを詰め込んだドラマティックなアルバムは引き込まれて興奮する分、映画を見終わった後のような疲労感も伴うものだ。ここまで軽やかに快感が持続していると、聴き疲れる感じはなく、気軽に何度でも楽しめる。チルな音楽を作り続けてきた彼らなりのアッパーな表現、なかなか興味深い作品である。