Bad Math – Spectacle(2025)

新譜
新譜

 おすすめで流れてきて即ハマってしまった香港のバンドBad Mathの6曲入りミニアルバム。音楽性はポストロック、USインディ、80’sポップをミックスしたインディロックという感じで、ひんやりした余韻を残す金属細工のようなギターと、重心の低い太いベースにタイトなドラムのタッグによる硬質なグルーヴ感、そこに絡むクールな女性ヴォーカル、これらの要素が生み出す、香港の夜の街が思い浮かぶ(行ったことないけど)ようなメランコリックかつ荒涼とした空気感がとても魅力的だ。個人的には2010年前後の日本のインディ界隈(相対性理論や残響レコード勢など)に似た感じを覚えて懐かしくなり、好きなってしまった。

 Bad Mathは2018年に香港で結成され、これまでにアルバム、ミニアルバムをそれぞれ1作ずつリリースしているようだが、2022年にヴォーカリストが脱退、その後活動休止を挟んで、元々シンガーソングライターとして活動していたGwenji Hoがヴォーカリストとして加入し、今作のリリースに至った模様。前ヴォーカリストのYukiはシューゲイズ風のウィスパーヴォーカルだったので、前作『Missing Narrative』はポストロック寄りの浮遊感のある内容で、個人的にはそちらも気に入っているのだが、本作は表現力豊かな歌唱スタイルのGwenji Hoの加入により、バンドの音楽性に歌モノとしての新しい魅力が加わっている。現代都市の冷たさや鬱屈を感じさせる「Sandman」のクールでビターな疾走感や、メランコリックな美メロにうっとりさせられる「Feather」、さらに「Zoo」のようなメロウなヴァースからロックなコーラスへ急転換する振れ幅が大きい曲も登場しており、前作までに培った空気感・世界観をポップな方向性に押し広げているのが良い。ほんのりと香るメロディックなアジア歌謡のニュアンスも沁みる。
 またバンドサウンドも非常に魅力的で、中心メンバーは楽器隊3人なのだが、Bandcampの作品クレジットを見る限り、サポートなのかゲストなのか複数のミュージシャンが制作に参加しており、確かに録音された音はスリーピース的ではなく、2本のギターやシンセなどで緻密なアンサンブルを構築している。このアンサンブルが生み出す複雑な味わいや深い音世界がBad Mathの大きな魅力で、緊張感のあるギターの残響音が演出する空気感、機械的なシンセのサウンドが描く都市の情景、ぶっとい低音で渋いラインをうごめきまくるベースと、ステップを踏むような軽快かつタイトなドラムが生み出すグルーヴ感。陶酔感とダンサブルなリズムが同時に楽しめるこの組み合わせが巧みだと思う。

 メランコリックに統一された中にも様々なヴァリエーションの曲があり、有機的なバンドサウンドと表情豊かなヴォーカルが楽しめる味わい深い6曲は、大満足の内容である。

評価:★★★★+ 8.5/10