Mikayla Geier – Hot Pot(2025)

新譜
新譜

 相変わらず素性がよく分からないカナダ出身のMikayla Geierの2ndアルバム。前作『Here We Go Again』は昔の映画音楽をベースにしたオーケストラルなレトロサウンドとダンサブルなリズムが魅力のインディポップだったが、今作はそのダンサブルな部分をさらに推し進めて80’sのディスコポップ感が強まっており、「Pearl of Glue」「Diva」といった序盤の曲から終盤の「Piano in the Sky」「Ring Pop」まで、軽快な4つ打ちビートと彼女の元気なヴォーカルがはしゃぎまわり、「Shimmy Shake」に至ってはマイケル・ジャクソンやブーツィー・コリンズを思わせるエレクトロな80’sファンクも炸裂。前作もエネルギッシュだったが、今作も変わらず活き活きとした歌と、躍動感あふれるリズムが好調で、全8曲をノンストップで駆け抜ける、ランチタイムの街の賑わいを思わせる楽しい作品だ。

 それにしても、とにかくTikTok~サブスク時代の音楽というか、曲が60年代の“3分間ポップス”どころでなく短い。テンポが異様に早いパンクやハードコアバンドと同等の短さで、そのほとんどが2分台である。イントロも間奏もアウトロもほぼ無いこういった“タイパ”的視点で語られがちな最近の音楽は「若者の一過性のファンシー・グッズなんじゃないか」「それをいい歳コいちまった叔父様が覗き見ているのはいかがなものか」といった疑いと自意識が働いてしまうものだが、彼女の音楽に関しては、そのノリの良さ、歌のキレを前に、そんな自意識を働かせるヒマも無い。ハイパーポップ系にありがちな過剰にシャキシャキ・バキバキした鋭利なデジタルサウンドでもなく、80年代以前のポップス(少しブリットポップ期のblurも彷彿とさせる)を取り入れたレトロな質感のサウンドは1st同様で、キャッチーなメロディと共にこの普遍性は大きな魅力である。

 ゆえにもう少し注目されても良さそうであるが、メディア露出は相変わらずほとんどないようだ。最近よくある直訳調の日本の洋楽情報サイト(いくつかあるが、事業主体も分からないあれらのサイトはいったい何なのだろうか?)ですらもほとんど紹介されていない。どうもTikTokで結構再生数が回っているようなので、もうそこでメディア活動が完結しているのかもしれないが、TikTokは何が面白いのか分からず見る気がしない私のような人間にとっては相変わらず謎の存在である。
 とはいえ、1stも紹介している手前そうもいっていられない。ちょっと海外のレビューサイトなどを参考に拾ってみると、カナダのバンクーバー出身、中国とドイツをルーツに持ち、本作のタイトル「Hot Pot」も中華料理の火鍋のことのようだ。少し前から英米の音楽は、英語文化・白人文化圏以外にルーツを持つミュージシャンがウケるようになってきている。ここからは色々と政治的、社会的、文化的なことが読み取れるかもしれないが、まあ自分としては「私がJ-POPに飽きたように、英米のリスナーも純粋な英語的世界観のコンテンツに飽きたんじゃね?」と思っていて、彼女もそんな流れの中で今後も人気を増していきそうだ。

 ちなみに漫画っぽいイラストのアートワークも気になって調べてみると、Amanda Zhangという絵師の作品で、エログロ表現の強い昭和アングラみのある強烈な表現の作風。こちらも非常に良かった。

評価:★★★★ 8.0/10

音楽だけ聴いているとハイセンスなインディポップといった感じだが、MVで披露するダンスは相変わらずクセが強い。ダンス系でよく言われるカワイイ、とか、カッコイイ、とか、Swag、みたいなものとは違う、バレエ仕込みの独特な振り付けで、コミカルさやエネルギッシュさは昔の香港映画を思わせる。