
具体的には、MGMTやTame Impalaの登場以降世界中で増えた、60~70’sのロック、ジャズ、ソウルのフレイヴァーを混ぜ込んだレトロなサイケ・ポップの流れだが、フランス語の響きに、トロトロにとろけるほど甘いコード進行とメロディ、といったフレンチポップ要素が個性を主張。特にメジャーセブンスや瞬間的な転調など、あえて常道を非現実な方へ踏み外すドリーミーなコード進行はフレンチポップだとしても過剰で、その過剰さが同時にサイケデリアの効能も生んでいる、これはもう大好物のソングライティングである。
とはいえ、本作は2ndアルバムのように歌自体が主役となるキャッチーな曲は少ない。その代わりギターやシンセのメロディやコード感もかなり立って聴こえるバランス感となっており、「Fugue」や「Astrud」などで聴ける、ギターの美しいアルペジオやノイジーな酩酊感、ドリーミーなキーボードが描き出す空気感も聴きどころである。加えて「Le Laboratoire」や「L’Essor」のサイケポップらしいレトロなヴォーカルのハーモニーも心地よく、アルバム終盤の「As-tu Peur Du Matin?」や「Mon Morceau Préféré」などでは主にシンセがアルバムタイトル通りスペーシーなサウンドを展開したりと、全9曲32分というコンパクトな中に魅力がたくさん詰まっている、派手さはないものの、聴き飽きない作品である。
BicheはヴォーカルのAlexis FugainとギターのBrice Lenobleの2人が中心のようで、2025年作『B.I.C.H.E.』では彼ら以外の編成が変わっている模様だ。また、Brice LenobleはCesar Precio名義でソロアルバムもリリースしており、そちらはソウル色を強めながらもやはりスウィートな感じである。
冒頭にも書いた通り、本作のおよそ6年後に2ndアルバムをリリースしており、2ndでは白昼夢的なメロディはそのままに、そのサウンドをレトロサイケポップから音響系インディポップへと変貌している。個性的であることと、より歌が立っているという点において2ndのほうがやや好きだが、この1stも大変気に入った次第である。
楽器を高いポジションで構えるこのレトロ・スタイルだが、さすがに高すぎやしないだろうか? と思ったらストラップもつけてないのね。