Vinyl Williams – Portasymphony(2025)

新譜
新譜

 2025年に『Polyhaven』と共にリリースされた9枚目のアルバム。本作は90年代初期の8トラックのカセットMTRであるPortastudio 488で制作された、ローテク、ローファイ縛りの実験作である。『Polyhaven』のほうは従来のVinyl Williamsとしての新作という感じだったが、こちらは明らかに趣が異なっており、アナログなざらついた音質は当然として、作ったはいいもののVinyl Williamsとしてリリースするにはいささか音楽性が異なるために眠らせてあったような曲(あくまで印象だが)が多数収録されている。こう書くとあまり良さげに聴こえないかもしれないが、個人的には『Polyhaven』よりこちらのほうが好印象だった。

 ヨレヨレの音像で時間間隔を狂わされるドリーミーでノスタルジックなインスト「Sunlight」で幕を開けると、60’sソウルなリズムと甘いヴォーカルの「Tighten It Up」、昔の誰かのカバー曲かと聴き間違えるレベルにブルースハープまで入ってくるロックンロール調の「Peaceful Man」、作曲セッション中に勢いで吹き込んだラフ音源のような「Lowphonic Vum」、これまたアイデアの悪ノリの極致の(どんどん早くなっていくアレンジをやる人はたまにいるが、これはピッチまでおかしなところまで上がっていっている)素っ頓狂なインスト「Lo Porta」、Joy Divisionチックなスカスカなビートとサウンドが楽しい「Future」、初期ハウスのようなインスト「Divin」「Portatronic」、その合間に、ちゃんといつものVinyl Williamsっぽい曲も収められていて、優雅なメロディがシンプルなアレンジに映える「True Nature」や、スペーシーな浮遊感が心地よい「Floating」、『Polyhaven』の方であまり聴けなかった美しいギターアルペジオが冴える「Living in a Sonic World」、オルタナティブ・ロックな勢いのあるノイジーな「Aries Rising」なども入っていたりする。

 このように取り留めのない感じで全17曲も並んでいる。これがなぜ好印象になるかというと、音楽制作をしたことのある人なら分かると思うが、デモ音源的な勢いというか、頭の中に思いついたままの状態を素早く録音した結果の、制作初期のワクワク感がそのまま真空パックされている感じなのだ。こういったものは、その後、正式にアレンジをして、リズムやピッチも正確に、音質もきれいに録音したりすると、とたんに魅力が掻き消えてつまらない曲になりがちだ。それゆえ、丁寧に作りこんだ音では生まれ得ない天然の魅力が宿っている。本作『Portasymphony』における曲の成り立ちが、実際にストック曲を元にしたのか、このアルバムの為に新たに作曲したものなのかはわからないのだが、いずれにしても、偶然の産物ともいえる「デモ音源マジック」的な魅力を、ローテク機材による実験的なプロダクションで再現したのであれば、非常に面白い取り組みであると思う。

 ちなみに音質も、ローファイものによくあるチープでショボい感じではなく、倉庫にほこりをかぶって眠っていた古ぼけたテープの謎音源、といった感じのリアルな経年劣化を演出しており、これが温かみやなつかしさを感じさせることに役立っている。またこういったサウンド・プロダクションの余波かもしれないが、この混沌とした感じがいつもとは違うアルコール的なサイケデリアを生んでいて、どこに進んでいくのかはまるで分らないのだが曲と曲は確信に満ちた感じでつながっているので、意外と飽きがこず、聴いている間、終始キモチイイ酔い心地でいられる。最後の「The Always Eyes」までいくと頭がだいぶ酩酊状態にさせられていることに気付く。

 必要以上に加工の行えないローテク機材での録音であるからこそ、Vinyl Williamsのアイデアの源泉にそのまま飛び込んでいける、そんなキテレツな良作である。

評価:★★★☆+ 7.5/10