Wet Leg – Moisturizer(2025)

新譜
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 私も2022年の年間TOP10に選んだ傑作デビューアルバムから3年ぶりとなる、待望の2ndアルバム。といっても、「デビューアルバムが絶賛されたUKインディバンド」の多くが、その後世界中をツアーで回って満を持して出した2ndアルバムが大コケする、いわゆる「ソフォモア・スランプ」に陥るのを見てきたので、正直、楽しみよりも不安の方が大きかった。Voリアンのルックの変貌ぶり……マーヴェルの女性ヒーローのごとくビルドアップされた肉体と派手な衣装も困惑するばかりであった。
 しかしながら、蓋を開けてみれば本作はきわめて真っ当な2ndアルバムであった。つまり基本的には1stと変わっていないものの、少しの力強さに、少しの楽曲バリエーション、演奏や表現の深み、開かれたポップさなどがほどよく加えられた、バランスの整った作品ということである。思えばWet Legは勢いだけでポッと出たバンドではなく、リアンのシンガーソングライターとしてのソロ活動の後に結成されたものなので、ソフォモア・スランプでよくあるソングライティングの魅力が急激に薄まる、といったことはあるはずもないのであった。加えて本作は他のバンドメンバーも作曲に加わって、よりバンドとしての一体感が生み出されている。中にはへスターが作詞作曲し自らリードヴォーカルを取る「Pond Song」や「Don’t Speak」といった曲まであり(ライブではリアンが歌っているようだが)、プロダクションにおいて色々なチャレンジが行われたこともうかがえ、このことも本作の堅実さを感じさせるゆえんとなっている。
 私が特に好きなのは、エレクトロなサウンドと都会的な甘いムードが魅力の「Pokemon」と、なだれ込むように続くグランジ的なダークな曲調とハードな歌詞にぶちのめされる(しかしサビのヴォーカルはカワイイというギャップ付き)「Pillow Talk」で、このあたりは今までのWet Legにはなかったような曲だが、アルバム後半に非常にパワフルなカタルシスをもたらしている。シングル曲が固まってる前半は、「CPR」など重々しいリフがのたうつロック曲が構えていたり、言い寄ってくるキモメンを撃退するような歌詞の「Catch These Fists」や「Mangetout」など、全体的にややダークさが醸し出されて、このあたりの音楽的な変化を考えると、「その辺の女子」的なナチュラルで赤裸々なキャラクターから、いかにもロックスター然としたふるまいに変わったライブパフォーマンスや、リアンのルックの変貌も、新しい表現における新たなアイデンティティの獲得だったのだな、と納得し、非常に頼もしいものに感じられるようになった。

 いっぽうで少しもどかしく感じるところもあって、それはなにかというと、やはり日本人リスナーとしては永遠のテーマである「言葉の壁」である。これは英語の読み・書き・聴き取りに難のある多くの日本人リスナーが、「歌詞に面白みがある洋楽」を聴く時の悩みでもある。スラングやローカルネタを盛り込まれると直感的に分からないから、和訳や検索で調べて、学問的に分析する感じになってしまうのである。この行為は、音楽を鑑賞するうえで正しくない。「ケタミン」「カラミティ・ジェーン」「ダヴィーナ・マッコール」といった言葉や、「マンジュトゥーとマン・ゲット・アウトのシャレ」とかを聴いて直感的にイメージや感情を湧き起こすことが出来るのと、いちいち調べてからワンクッションおくのとでは、楽しみ方にだいぶ差が出てしまう。Wet Legの音楽は歌詞を分からず聴いても楽しいものではあるのだが、といっても音楽性だけで十分刺激的なレベルというわけではなく、基本的にはどこかで聴いたことのある感じのシンプルなインディロック、パワーポップなので、Wet Legを唯一無二としているのはやはりそのソングライティングであることは疑いようがない。本作は、前作に比べて少しダークで、パワフルなロックが基調となっていることから、前作ほど無邪気なまでの歌メロのポップさはなく、少し地味に感じるところもあるので、なおさら「歌詞」のところが目立つ。痛烈な皮肉だったり、セクシーな歌詞だったりに、直感的に「ドキッ」と出来るような(つまり日本の音楽を聴いているのと同じ感覚で聴けるような)英語力を身に付けられればなあ、とこれはRadioheadにハマった大学時代から思っているのだけど、日本に住んでいると日常生活で英語を使う機会は基本的に皆無なので、これがなかなか難しいんだよねぇ。

 とまあ、そんなモヤモヤもありつつ、本作は、起伏に富んだメロディとスカスカなサウンドにマジカルな魅力が宿ったデビューアルバムほどではないものの、儚い奇跡の一発屋ではない、新しい魅力やバンドの成長を見せてくれる、ファンの期待を裏切らない作品である。

評価:★★★☆ 7.0/10

Wet Legとえばやはりこのメンバー自作の謎にクセになる低予算MVである。主要メンバーとは思えないへスターの存在感の示し方(常に気を消して隠れ気味でいるゆえ、逆にその存在が気になってしまう)も絶妙だ。