Hiromi’s Sonicwonder – OUT THERE(2025)

新譜
新譜

 上原ひろみは自分よりほんの少しだけ上、ほぼ同世代の人で、若いころからその名前は目にしていたけれど、ロックに夢中でジャズになかなか興味が向かず、ずっと別世界の人という印象だった。ようやくこの歳になってジャズも聴くようになり、そんなちょうどいいタイミングでKEXPにバンドメンバーを引き連れた編成で彼女が出演しているのを目撃、本作収録の曲を披露していて驚かされた次第である。勝手な印象で本格ジャズのピアニストだと思っていたので、まずこんながっつりバンド編成でエレクトリックにフュージョンやる人だと思っていなかったのだ。しかもリズム隊はジャズからファンクまでカバーする屈強なグルーヴを形成しており、いかにも凄腕である。ジャズからポストロック、マスロックに渡されたものがまたジャズに戻ってきたような、モダンなバンドサウンドのカッコよさもあって、めちゃくちゃ最近の自分の好みなのである。

 本作はまずアルバムの構成が面白い。まるでライブのセットリストのような雰囲気で、序盤は勢いのあるツカミの曲、上原ひろみのデビューアルバム収録曲のSonicwonder版となる、変拍子が乱れ飛ぶクールかつスリリングな「XYZ」から始まり、上原ひろみのラーメン愛が爆発したユーモラスな「Yes! Ramen!!」も、中華風のキメフレーズが出てくるおふざけな曲かと思いきや途中からラーメン関係ないマスロックというかニュージャズというかモダンなリフの応酬で絶頂に上り詰めていくめちゃくちゃカッコイイ展開が待ち受けている曲で、壮大に前半を締めくくる。するとつなぎのような感じで、これも過去作のリメイクだが、しっとりとしていて美しい唯一のヴォーカル曲「Pendulum」を披露。元々は矢野顕子とのコラボで披露された曲のようだが、本作ではイギリス生まれカナダ育ちのシンガーソングライターMichelle Willisが英語詞で歌っている。そして次からはアルバムタイトル「OUT THERE」の4部構成の組曲で、アルバムのテーマをじっくり掘り下げる展開。浮遊感のあるリズムの上でベース、シンセ、トランペットが代わる代わるユニゾンする「OUT THERE:Takin’ Off」で軽やかに発進、移り気なキメが印象的な「OUT THERE:Strollin’」では地に足の着いたファンクのリズムでふらふらと街歩き、星空のような美しいピアノから自由なエレクトリック・ジャズのセッションを挟み最後は高らかなトランペットの音色が鳴り響く「OUT THERE:Orion」で壮大さを演出、そして最後はゲームのエンディング曲のようにスペクタクルで大団円なムードの「OUT THERE:The Quest」で本編が終了。ここからはアンコールのような感じで、再びピアノソロヴァージョンの「Pendulum」でつなぎ、最後はNordによる呑気な音色がポップな「Balloon Pop」で可愛らしくそしてユーモラスに本作を〆る。プログレ好きが出ているようにも思うが、こうやっていろいろな感情や風景を見せてくれるスペクタクル、演奏やアレンジのサービス精神はいかにもライブ的で、聴いていて非常に楽しい。

 Sonicwonderの2作目となる本作はメンバー同士の理解も深まったのか前作よりも一体感がさらに増しており、アルバム1枚の物語性や、ロック的なカッコイイレンジ、全体的なノリの良さ、ポップな曲が多数収められている等、私のような初聴きのリスナーにも入りやすい。何より、このアルバムの世界を支えているそれぞれのメンバーの才能である。上原ひろみの自由奔放かつアグレッシヴなプレイは言わずもがなだが、時にオーソドックス、時にスペーシーなほどエフェクトのかかった変幻自在のプレイをするトランペットのアダム・オファリル。複雑緻密でありながら大胆なファンキーさもあるフランス人ベーシスト、アドリアン・フェロー。超絶なメンバーの演奏をそのグルーヴの中で軽々と転がして聴かせるドラマーのジーン・コイ。ざっとアンサンブルとしてまとめて聴いた後に、一人一人のプレイに注目して聴くとまた別の面白みが立ち現れてくる。
 上原ひろみの長いキャリアの中では、もっと定番の名作や傑作があるとは思うのだが、本作『OUT THERE』は私のようなフュージョンやジャズファンクが好きなロックリスナーにはたまらない傑作アルバムだと思う。

評価:★★★★+ 8.5/10

ラーメン系YouTuberのショート動画をつなげただけのような低予算MVで草である。途中から特に音楽との乖離がひどくなるあたりは失笑を禁じ得ない。