
この最新作『CLOUD DRIFTER』では、そんな彼らのノスタルジアの世界がダンス・ミュージックやヒップホップなど、かなり時代が巻き上がって90年代くらいのノスタルジアを追求した作品となっている。もともと彼らの音楽の中にはこの時代のクラブ・ミュージックのエッセンスが秘められており、前作『Confusions』で少しその萌芽が垣間見えるが、そこから4年間、本作に至ってより大胆にクラブ・ミュージックを追求し、生まれ変わったような刷新性を感じさせる。90年代のリヴァイヴァルは最近インディロック界隈でもよく採用されているし、アシッドハウス、プログレッシヴ・ハウス、アンビエント、トリップホップあたりを狙ったサウンドも聴くようになったので、そんなトレンドと近しい音にも感じる。
スペーシーなシンセサウンドがSF感を醸し出す「MEMPHIS」、元来のファンク要素が鋭角に突出したバキバキなベースのアタック音がカッコイイ「RUN」、ハウス的な4つ打ちビートと後半のHard Floorのようなアシッドリフが気持ちいい「VERTIGO」と、冒頭からこれまでのイメージから逸脱した曲が大胆に並び、しっかり踊れるダンスミュージックとしてのサウンドに仕上がっている。
彼らの魅力であるリラックスできるチル曲もこれまでとは変わっていて、ハープの音色と美しいヴォーカルがBrandee Yongerの近作を彷彿とさせた表題曲「CLOUD DRIFTER」、甘い歌メロと優雅なサウンドにうっとりさせられる「NOSTALGIA」は今まで培ってきたソウル的なアレンジの曲ながらもポップさが際立っている。
また、これまでいろいろなアーティストとコラボしてきた成果も出ていて、アメリカのアンダーグラウンドなラッパーPink Siifu、エクスペリメンタルなエレクトロポップを展開するGelli Haha、ニューヨークのシンガーgirl named GOLDEN、リオデジャネイロ生まれのミュージシャンForest Law、調べてもよく素性が分からない美声のシンガーINES、さらにダンサブルな「ODESSOS」ではロンドンの若手ミュージシャンPhoebe CocoとA Ghost Columnの2組とコラボするなど、アンダーグラウンドでマイナーなミュージシャンとの活発な交流が本作でも実現されている。それゆえか、全体的にバンドの音というよりもサウンド・プロデューサーの作品のような趣を感じるアルバムだ。
ただ、この変化には少し戸惑いも。60~80年代の音楽と比べて、90年代以降の音楽は現在に至るまでそれほど音質の差が無いため、私が期待しているようなサイケ感をもよおすほどのノスタルジアはなく、今まで見えていた姿が錯覚だったのか、と思わしむるようなサイケ感の薄い仕上がりである(もともと本人たちの中でサイケの優先度が低いのであればしょうがないのだが)。打ち込み的なリズムが多かったり、スタジオで丁寧に練り込んでいる感じの作りのためか、これまでのジャムセッション的な有機的なバンドアンサンブルに潜んでいた、温かみのあるグルーヴ、空気感、トランシーなサイケ感といった要素が無くなっているのである。サイバーなスペーシーさや、ヴォーカル曲の持つポップ感、アップテンポなビートなど、代わりに獲得した要素も魅力的ではあるのだが、個人的には従来路線の仕上がりの方が魅力的に感じるかなというところだ。ただ、最近のKEXP出演時の彼らのライブ演奏を聴くと、本作の曲も今まで同様にジャムセッション的なアレンジで、グルーヴ感も強めでめちゃくちゃカッコよかったので、ライブで聴けばまた印象が全く変わってきそうだ。
まあ、彼らをライブで見ることなんて日本人にはなかなか難しいのだけれど……