
タイトルにも表れている通り、本来は『Eusexua』に収録されなかった曲を含めたデラックス版として構想されていたようだが、曲が良すぎて構想が広がったのか、確かにベスト盤やコンピレーションのような雰囲気はなく、独立したアルバム作品の風格だ。というよりも、『Eusexua』で提示された世界観とリンクしているので、『Eusexua』プロジェクトの2枚組のアルバム、もしくはRadioheadの『KID A』と『Amnesiac』の関係というか、そんな感じで見たほうが良いかもしれない。
全体的にはおとなしめな内容ではあるものの、それもコンセプトの一部で、ポップアルバムとしてのドラマが展開されていた『Eusexua』の後日談というか、欧州のクラブカルチャーを舞台にした仲間たちとの交流や男女の情景を描く歌詞も含め、「Wanderlust」で抽象的な世界へ旅立った後の裏ステージ、真夜中のアフターパーティのような雰囲気に包まれている。序盤は特に、Twigsさんの囁くようなヴォーカルと、シャープなビートと夢うつつなシンセのオーロラが重なり合う緻密なテクノサウンドのコントラストが美しく、「Slussy」や「Wild And Alone」のクールさや、一瞬のソプラノ・ファルセットが鳥肌モノな「Hard」と、反覚醒の意識のまま深夜の首都高速を走っているような夢見心地の疾走感が心地よい。そしてアルバムの1つの核となっている「Cheap Hotel」は、ピッチやテンポも歪んで不定形となり、完全に夢の世界に引きずり込まれるダウナーな没入感をもった、このアルバムの中でも特に好きな曲である。
夢うつつな儚い前半の展開に対して、「Touch A Girl」以降は、輪郭をもった重みのある曲が増えてくる。特に、日本人としては最初からタイトルに釘付けの「Sushi」に関してはタイトル以上に曲構成も風変わりで、「スシ・オン・マンデイ、ダンシング・オン・チューズデイ、カラオケ・ウェンズデイ」の言葉遊びがキャッチーなユーモアを含む歌詞、90年代スタイルの高音男性ラップが突然割って入るなどやりたい放題の展開であり、ダンスフロアというよりもパーティーのわちゃわちゃ感が出ているカオティックな高揚感に満ちた曲。ラストを飾る「Stereo Boy」も、Twigs作品では珍しくギターのアルペジオがフィーチャーされたアレンジに驚かされるが、どことなく終末感の漂うムードというか、裏ステージももうこれ以上先には進めず、一歩踏み外せば時間が永遠に引き延ばされたバグの世界に落ち込むような危うさを持った曲で、このあたりは80’sインディーロックも通過しているTwigsさんだからこそできる音という感じがある。ただ、後半は全体的に倦怠感のようなものが漂っていて、熱狂と表裏一体の、楽しいだけではない孤独や憂鬱というものも垣間見える。というかこれはあれだ、深夜の遊びは、終電越えるくらいにはこの興奮が無限に続くと思われても、3時くらいになると途端にだるくなる、あの感じに近いかもしれない。
とにかく、勢いでオリジナル・アルバムまで持っていったとは思えないくらいの音の作りこみで、この鼓膜に張り付いてくるようなテクノサウンドのテクスチャーがクセになる。複数のプロデューサーとのコラボレートによる制作であることをことを差し引いても、このクオリティはなかなか凄い。というか、本作は今までに見られたお馴染みのプロデューサーたちの名前が見られず、様々なプロデューサー、ミュージシャンとの共同制作となっているのにも驚いた。ソロアーティストが、自分の世界を複数のミュージシャンと一緒にまとめ上げるのはなかなか難しいことだと思うので、本人のプロデュースの才能がずば抜けて高いことの表れだと思う。どんどん異形の生命体のようになっていくビジュアルや、生命そのものの脈動のような前衛的なダンスも凄いし、ヴォーカルは言わずもがな。アートの高みに達した異次元レベルの「マルチタレント」を、今回もしっかり堪能させていただきました。