
新曲を出すたびに音楽性の幅が広がり、直近のミニアルバム『Assisted Memories』では、ディスコ調の軽快なグルーヴにキャッチーな歌を載せたメロメロなドリームポップを展開し、フルアルバムもその路線で作るのかと思いきや、そこはやはりイギリスのバンドらしく、メロディ要素を抑制し、歌とサウンドとの一体感を持たせた統一感のあるアーティスティックなアルバムに仕上げてきた。
アルバム全体通して印象的なのは、リヴァーブが強めにかかったドリーミー&スペーシーなサウンドと、サンプリングや打ち込みを用いたゆったりしたビートというアンビエント・ポップやトリップホップ的なアプローチで、そこに彼らの持ち味である、ヴェイパーウェイブやローファイビートを思わせる、もやがかかったようにノスタルジック&ミステリアスなくぐもった音色のMIXが施される。このサウンドが描き出すぼんやりとネオン煌めく夜の都市の風景と、サイバーな電脳空間で吸い込まれるように滑空する浮遊感、そしていつまでも棚引くような陶酔感。これに浸っているだけでもだいぶ心地よいが、そこに無邪気な妖精のごときイリスのヴォーカルが飛び回り、楽曲に確かな輪郭と豊かなキャラクターが付与されるのがNight Tapesの強みであり個性で、アルバム序盤からそんな彼らの魅力を存分に堪能できる。
アコースティック・ギターに導かれて始まる、寝起きのように爽やか&ファジーなムードの「Enter」、イリスの歌の魅力が存分に堪能できる、蒸気でぼやけたような音像の上に切ない歌メロが浮かび上がる「Television」と、一気にNight Tapesの世界に引き込まれる。本作は全体的にエレクトロなサウンドが目立っているが、所々にアコースティックギターなどアナログ機材の使用によって、いい具合に温かみが加えられているのが良い。このあたりの素晴らしいバランス感覚が一番効いているのが、陶酔感抜群の広大なリバーブの海と、アコースティックなローファイサウンドが、感動的なコントラストを生んでいる「Tokyo Sway」で、曲名含めて特にお気に入りである。
中盤、「Babygirl(like n01 else)」「Pacifico」など、一転してトリップホップ色の強いミドルテンポの曲が続くあたりはちょっと地味に聴こえる感じはあるものの、後半は立て続けにリスナーを引き込んでいく展開で、90’s的な懐かしいリズムパターンの上で、壮大な自然の運動を感じさせる没入感のあるアンビエントサウンドが素晴らしい「Patience(waiting for the setting sun)」、マックスのバッキング・ヴォーカルのリフレインが切ない「Leave It ll Behind, Mike」、イリスの伸びやかなハイトーンヴォーカルが気持ちいい「Storm」でクライマックスを迎え、最後、イリスがライブでよくやっているエキセントリックな金切り声がお茶目な「Wayfere」でちょっとおどけて終わるラストまで、聴き応え抜群の13曲49分である。
トリップホップ的な要素もまだ追及の余地がありそうだったり、キャッチーなメロディや軽やかなギターサウンドなど過去作で魅力的だった要素が薄まっていたりと、個人的には「もうちょっとこうなっていたら……」と思う点もないわけではないのだが(MVも作っていたポップな「To Be Free」がデラックス版に回っていたので、バンド側としても悩ましい取捨選択だったのかもしれない)、それでも、これまでミニアルバムのみのリリースだった彼らの、ボリュームたっぷりのフルアルバムを聴けて大満足である。
ドリームポップをアンビエントやトリップホップに接続させる試みも面白く、元々親和性の高いジャンル同士なのもあるし(Massive Attackの「Protection」や「Teardrop」がまさにその原型)、拡張段階に入ったドリームポップの今後という面から見ても、非常に興味深い作品であると思う。