
このことが意味するのは、もはや音楽も「気になったものをすべて楽しむ」ことは不可能であるということだ。本などと同様に、気になったものの中から自分のナラティブを元に「今、私が聴く必然性のある作品」を選抜していかなければならない。(こんなの今更気づくことか?とは思いながらも、サブスクデビューが遅かったので……)
私の音楽リスナー人生も、もう30年近くになる。今さら「新譜」だけに特化して音楽を聴きまくるのも不健全である。もっと現在・過去をごっちゃに混ぜ、特定のジャンル、特定のアーティストを深く掘り下げる、という楽しみ方の方が、充実感を味わえそうだ。
というわけで、今後はルーツを探る音楽の冒険、という感じで、過去作品の分量が増えつつもちろん新譜も無理のない程度に聴いていく、という感じでやっていきたい。(ちなみにDovesやStereolabの2025年新譜は、それぞれ全作品レビューの時に書く予定)
そして、今さらすぎる2025年の年間アルバムランキングである。今年はかなり傑作が多かったので悩ましく、TOP20に入っていない作品も、ほとんど差が無い。見渡してみるとチル系の作品が多いものの、自分がいま興味のあるジャンルの作品が大体全部入ってる感じで、満足だ。
20.LUCA & There is a fox – Dancers
2人とも日本人ミュージシャンとのことだが全く知らなかったので、最初は半信半疑で聴いていたものの、爽やかなサイケデリアを帯びた陶酔感のある音世界と、そこに溶け込む囁くようなオクターブユニゾンのヴォーカルにうっとりさせられ、気づけばじわじわとハマっていた。フォークとシューゲイズの中間のような、不思議でそして美しい作品。
19.Brandee Younger – Gadabout Season
ジャズ・ハープ界から非常にドリーミーな作品が届いた。ハープが主役であるものの、メロディを主導するような役割は薄く、全体に溶け合って一つの抽象的な音空間を創出している。曲によってはサイケデリアすら醸し出しているので、あらためてジャズの世界の広さには驚かされる。そしてまた掘らねばならぬジャンルが増えていくのである。
18.Melody’s Echo Chamber – Unclouded
うっすらとしたサイケデリアに漂う泉に花開いた魅惑のサンシャイン・ポップ。バンド演奏の巧みさも味わい深く、今後も末永くさわやかな朝を彩ってくれそうである。
17.Miki Berenyi Trio – Tripla
ブリットポップやグランジのブームで掻き消えたと言われるシューゲイズだが、熱心なファンが細々と支持し続けた結果、根強いジャンルとなって今に続いている。そして、忘れ去られていくと思われたオリジナル世代のレジェンドたちが、今こうして充実したシューゲイズ作品をリリースしてくれる幸せ。「8th Deadly Sin」は、Lushの煌めきがフィードバックする、ベテランらしからぬ瑞々しい魅力を放つ名曲だ。
16.Glazyhaze – SONIC
ベテランのシューゲイズあれば、若手のシューゲイズもあり。爽快な青空と煌めく陽光、同時に投影される憂鬱なほの暗さ。若者の揺れ動きがちな繊細な心を、ポップなシューゲイズ・サウンドによってコントラスト鮮やかに描き出した、美しい傑作。
15.一十三十一 – Telepa Telepa
日本の音楽業界は世界のトレンドとリンクしていないので、たまに世界の流行を先取りし過ぎてしまう時があり、結果的にあまり評価されないミュージシャンがいる。ハイクオリティのシティポップ・リヴァイヴァルをずいぶん前からやっていた一十三十一も、もっと知られてもいいのに、と思いながら聴いていたが、ここへきてついに現在進行形の海外のシティポップ・リヴァイヴァルとリンクする快作をリリース。ほんと嬉しい。
14.Tokyo Tea Room – No Rush
全部同じ曲に聴こえると言っても過言ではないのに、なぜか聴き飽きない奇跡的なバランスで成り立つ引き算の極みのような音楽。ダメな人にはとことん退屈な音楽かもしれないが、私はこの最初の一音からふわっと広がる寂し気なメランコリアと、薄明りのノスタルジックなロマンスの香りが、ずっと浸っていたいくらい心地よく感じる。
13.Biche – B.I.C.H.E.
極上に甘いメロディと、電子的なサウンドとクラシカルなアナログ楽器が融合した音響派な音作りが、漂白されたような白昼夢の世界へ誘ってくれる。Bicheを知ってからというもの、中毒症状を呈してしばらくこのアルバムともう1枚の作品を聴き続けていた。こういう英語圏を逸脱した思いがけない出会いがあるのはサブスクのアルゴリズムの良い面で、知り過ぎて聴き切れなくなるリスクを知ってなお抗えないところではある。
12.Sault – 10
エレクトロ化する前の古き良きブラックミュージックを、ほんのりと現代的なセンスを加えて蘇らせた傑作。全曲で存分に堪能できる人力グルーヴがとにかく身体をほっこりと暖めてくれるし、クレオ・ソルの美しく力強い歌声にも元気づけられる。
11.落日飛車(Sunset Rollercoaster) – Quit Quietly
スローに引き込んでからとんどんアクセルをふかしていく難しいアルバムの流れを、歌と演奏のシンプルな強み、アレンジの多様さで傑作に仕上げた素晴らしいアルバム。音楽を聴けば聴くほどストレートな表現には飽きてしまいがちだが、このアルバムに収められている堂々たる泣きのメロディには久しぶりに感動させられた。
10.Hiromi’s Sonicwonder – OUT THERE
上原ひろみにようやく出会えたのは2025年の大きな収穫。リアルタイムでハマれなかった悔しさはある一方で、これから傑作が約束されている過去作を何枚も聴けるワクワク感がたまらない。ちょうどフュージョンやジャズファンクを聴くことが増えたタイミングで、「入口」にふさわしいポップでスペクタクルな『OUT THERE』を聴けて本当に良かった。
9.Not For Radio – Melt
バンドを離れ2人の音楽プロデューサーとともに作り上げた、純粋培養のメロウネス。The Maríasの煌めく王道のポップス感も素晴らしいが、この親密で静謐なドリームポップも大変心地よかった。ただ、あまりこちらにハマり過ぎて、The Maríasに戻らなくなることの無いようにお願いします……。
8.Men I Trust – Equus Asinus
ノスタルジックなメランコリアの霧がむせかえるほど覆っている、徹頭徹尾チルアウトを追求したアルバム。彼らのグルーヴィーで軽快な側面はもう1枚のアルバムに託されており、眠りを誘うような曲ばかり収められているにも拘らず、なぜか聴き飽きない濃ゆい哀愁世界が魅力的すぎた。
7.青葉市子 – Luminescent Creatures
もう美しくて美しくて……ひっそりした雰囲気の作品でありながらも、1曲1曲がより深く胸に染みてくるので、涙腺が緩む瞬間が多発して、溜息しか出ない。
6.Downy – 無題
日本のオルタナティブロックの至宝がまたしても快作。刺激的な音像はいささかも衰えを見せず、現代都市で暮らす神経症的な鬱屈を燃やし尽くさんばかりの、狂的なカタルシスを与えてくれた。最近とみに日本のマイナーなミュージシャンが海外リスナーに発掘されているが、Downyももっと評価されてしかるべきではないだろうか。
5.Viagra Boys – Viagr Aboys
音楽メディアが彼らを紹介するときに使う本質をとらえていないカテゴライズや、バンド名ならびにセバスチャンのパブリックなイメージに隠蔽されていた、彼らのノイズやサイケデリア、ウィットに富んだ歌詞を発見できたことが今年なによりの収穫。ライブも最高だった。
4.石橋英子 – Antigone
陰鬱なディストピア小説を読んでいる時のような、他人ごとの浮遊感。そう思っていたら実は私自身がそのディストピアの只中にいた。情報の巨大な渦に揉まれて剥離した心を掬い取ってくれる、安息地のような歌と音の世界。
3.FKA Twigs – Eusexua
Twigsさんにハマった今となっては、このアルバムより好きな作品が他にあるが、その入り口となった最高のポップアルバム。シリアスなまま通しても良さそうなものを、ノースちゃんの日本語ラップで一振りのユーモアすら入れてくる完全無欠さが凄い。しかし同時に、そのアート性が全く損なわれていないのも素晴らしい。
2.Lambrini Girls – Who Let the Dogs Out
今日日、アルバムの最初から最後まで、これほど怒りとユーモアを全力で振り撒けるパンクバンドはなかなか居ない。途中に箸休めのミドルテンポ曲なんて一切ない、ハイテンションなパンクアルバム。そのうえ、ノイズロックとしての大胆不敵なディストーションのテクスチャーまでバリバリと乗っかっているのは至福の極みである。
1.Squid – Cowards
現実のようでいて悪夢のような、奇妙な心象風景を描いた没入型のダウナーなアルバムは、私の心をひどく蝕んだ。「知らないうちに加担している悪」という、最近たまに見かけるようになった現代社会に対する問題提起的なコンセプトから、この繊細でノスタルジックな、同時に憂鬱で切ないサウンドとともに思考は飛躍して、悪の起源のようなものまで思いを巡らせてしまった。私にとっては共感しかない、至高のアートロックにして、心地良き悪夢の世界。