
それを踏まえて私が感動したのが「Hypnotyze」で、これは90年代J-POPな煌びやかでエモーショナルな泣きのメロディ、たとえば浜崎あゆみの「Poker Face」のサビのラスト部分のようなパートだが、そのJ-POPの一番のキモの部分だけを切り取ってループさせるDJ的な作りをしているように感じられ、その世代直撃の40代男性たる私は、その意外な発想も含め、完全に魅了されてしまった。J-POPはAメロ・Bメロ・サビ(+大サビ)という、サビを絶頂とするフルコースの様式美が音楽の自由度を制限してしまったり、コテコテなクドさが出てしまったりすることに弱みがあるが、その絶頂の一部分のみを切り取り反復要素として使うことで、J-POP特有の様式美や過剰さを抑制し、切ない感情を爆発させたダンスミュージックとして(日本によくある○○風歌謡曲、ではなく)聴かせることに成功している。これはXGの標榜している「X-POP」の体現そのもので、なおかつ海外でウケようとするにはリスクとなる過剰にエモーショナルなJ-POPのメロディ要素を「核」として選んでくれたことに、感動した次第である。(あと蛇足で、相変わらずHARVEYの声の使い方が上手い。CoCoの三浦理恵子的な役割というか)
また、鋭いダンスも見どころな「Gala」は、CHISAのLADY GAGAリスペクトな力強いヴォーカル、耳に残るポップなラップ、さらに旧世代のオタク心をくすぐるJURIAとHINATAのアンドロイド少女設定のパートなど、聴き手を中毒させるギミック満載で、いかにして反復して聴かせるかが価値のポップスにおいて、この2曲は極めて優秀な現代型のポップソングである。ほかにも、ボトムの低いタイトなリズムがクールなリゾート系R&B「Rock The Boat」(間奏のミニーマウスみたいなJURIAの振り付けが…)や、疾走感すらあるアッパーなディスコポップ「Take My Breath」、耳に残るフレーズが連発するイヤーワーミーな「UP NOW」など、序盤から中盤にかけての高揚感は文句なしの傑作の風格を漂わせている。
しかし、終盤の「O.R.B.」からは、少し予想外の展開に。
まず「O.R.B.」に関しては、これは「Shooting Star」のライブアレンジについても同じことが言えるのだが、XGは、R&B、ラップ、クラブミュージックなどへの造詣が深く、他にもダンス、映画、ファッションなど各分野での“深さ”を見せてくれるのに、ことロックになると突然めちゃくちゃ薄っぺらくなってしまう問題がある。「O.R.B.」はSum41やBlink182などの、00年代のキッズが聴いていたようなアメリカの“ポップパンク”の感じで、そのジャンルとしてはやや音の軽さはあるものの一定水準だし、かつてカバーソングのコーナーでアヴリル・ラヴィーンを歌っていたのでメンバーの核の1つには違いないのだが、ここまで統一されていたアルバムの流れとして唐突なうえ、XGの「ロック」のイメージが、あまりにも「アメリカの一部の商業ロック」のイメージに寄り過ぎていて、ラップやR&Bと同等のロックカルチャーに対する深いリスペクトは感じられず、ロックオタクとしてはモヤっとしてしまうところである。COCONAさんのラップの部分だけは凄いハマっていてカッコいいんだけど……。
またこの後の2曲、「4 Seasons」と「PS118」はシングルとしても出ていて、曲としては好きなのだが、ここまでのアゲアゲな展開に比して、非常に大人しいアレンジになっている。アルバムの導入部分で、宇宙空間的な場所からギャル宇宙人たるXGが舞い降りてくるようなSEが入っているのでおそらく、マクロからミクロへ、つまり、宇宙からGeneへ、最後はメンバーのいちばんの「核」(歌とラップ)に到達するという意図で、それゆえそぎ落としたようなアレンジになっているのかなと思うのだが、アルバムの流れで聴くと、今までの高揚感がカタルシスを生み出すことなく、クライマックスが来ないまま急にしぼんでそのまま終わってしまう感じがするのだ。この終盤の展開に不完全燃焼感があり、ちょっと勿体無いと感じている次第である。
とはいえ、全体的には王道のポップソングとして純粋に楽しい良曲ぞろいで、ダンスミュージックとしてのグルーヴ感も十分だし、「Gala」や「Hypnotize」のようなキラーチューン(古い言い方な感じ……今風に言うとバンガーだろうか?)もあり、メンバー個々の表現力も遺憾なく発揮されていて、特に「PS118」のMAYAのパートは気合と覚悟がこもっていてめちゃカッコイイので、今後の展開を非常に期待させてくれるアルバムだった。
そして最後に、その“今後”を意識するうえで矢張り触れておかねばならない、SIMON(およびChancellor)の話を書いておきたい。
実は件の名古屋公演を妻と一緒に観に行っており、当日は金山のホテルに泊まって名古屋市内を観光して帰る予定だったのが、朝イチでYahooトップに「SIMON逮捕」のニュースが出ているのを見て衝撃を受け、2人して気持ちの整理がつかないまま名古屋の喫茶店をトボトボ巡ったりする、なんとも後味の悪い遠征となってしまった。自分としては、彼女たちのアイドル性よりも楽曲の方に注目していたので、作曲陣の中心だったSIMONとChancellorが退場ということになると、自分にとってはグループ解散級の出来事で、次の新曲で「出会い直し」になってしまうなあ、と非常に残念に思ったのである。
とはいえ、本作で感じた不満なども含め、ここはどうなんだろう、と思うところも無くは無かったので、これを機にそういった部分を払しょくし、さらに素晴らしい音楽性に変わるチャンスでもあると、今はポジティブに受け止めている。
そもそも、XGのメンバーは「アイドルではなくアーティストとして育成」だったはずで、直近の曲でも作詞に参加するなどその萌芽は見てとれていた。今はまだパフォーマーとしての割合が高いように見えるが、もっとアーティストとして楽曲制作にかかわる部分が増えて来れば、セルフプロデュースで十分やっていけるはず。ソロのポップシンガーでも、自分でコンポーザーを見つけてきて、ディスカッションや共同作曲などで自分たちの狙った曲を作る、ということをしている人はいるので、7人も優秀な才能が集まっているXGがそんな領域に踏み込めばきっと素晴らしいものが出来るに違いない。
ただ、90年代から音楽を聴いてきている身として気になるのはエイベックスという会社の存在で、今回一緒に社員が逮捕されているのを見ても、余計な事しかしなさそうで心配である。できればメンバー及び、残っているXGを支えるスタッフたちに任せてあげて欲しい。
そしてSIMONについては、まあ普段サイケデリック音楽というドラッグカルチャーを前提とした音楽を好んで聴いている私が何か言えたもんでもないが、ギャングスタラップのプロデュースでもあるまいしずいぶん迂闊なことしたなということと、才能ある人だと思うので、日本じゃなくていいからどこかで再起してまた面白いプロデュースを見せて欲しいなと思っている次第であります。
どれだけ「アイドルに興味ない硬派なリスナー」を気取ってみたところで、冒頭数10秒のJURIAタイムにHypnotyzeされていることは正直に告白しておきたい。そしてJURIAにドリームポップ風の曲を歌って欲しい。