Herbie Hancock – Sunlight(1978)

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 サタデーナイトフィーバー風のうさんくさいスーツに身を包んだハービーにひるまされる、『Head Hunters』以降のジャズ・ファンク路線の5作目。ジャズ・フュージョンにファンクを導入してグルーヴィーなサウンドを追求してきたハービーが、本作では再び方向転換を実施している。

 本作で一番印象的なのはヴォーカル・アルバムになっているという点で、しかもここまでずっと黙々と鍵盤を弾いていたハービー本人が歌っているのが驚きである(なお本作以降は定番化)。さすがにR&Bシンガーのように喉を振り絞って歌い上げる歌唱法というわけではなく、エフェクター狂であるハービーらしく、近未来的なヴォコーダーをかけたソフトでドリーミーな歌唱法だが、これがジャズ特有の都会的かつ浮遊感のある甘いメロディに馴染んでおり、全体的にリゾート感のある上質なフュージョンポップ、というか、のちのシティポップにつながる源流のような音楽性になっている。
 いっぽう近作で強烈に押し出されていたファンクの要素はかなりマイルドになっていて、「No Means Yes」で一瞬めっちゃHeadhunters感の溢れる展開になる(ポール・ジャクソン特有のリフが聴ける)程度で、あとはフュージョンの構成要素の1つとしてグルーヴィーなリズムの中に溶け込んでいる印象である。制作にかかわるミュージシャンがふたたび増えているのも本作の特徴で、おなじみのワーワーワトソン、ベニー・モウピン、ポール・ジャクソンも数曲の参加に留まり、曲によっていろいろなミュージシャンを招いている模様である。
 さらにアートワークからも察せられる通り、冒頭の「I Thought It Was You」では4つ打ちのディスコビートを取り入れ、売れ線のトレンドにも接近。例によってジャズの本流からはだいぶ離れてしまったためか、前作・前々作ともに賛否両論の評価のようだが、個人的には、リゾートのバイブスが横溢した夏に最高の1枚で、フュージョンポップ、シティポップ、AORあたりが好きな人には大いに楽しめる内容になっているのではと思う。じんわりと高揚感を高めてくれる軽快な「I Thought It Was You」もいいし、メロウでドリーミーなムードの「Come Running To Me」、まったりとしたグルーヴで身体を揺らしてくる「Sunlight」「No Means Yes」も地味に良い。

 そして、このままの路線で終わっていれば小ぎれいにまとまって、しかしながらハービーの作品にしてはインパクトが弱いね、といった評価になりそうだったのが、最後、ベースにジャコ・パストリアスを招聘した「Good Question」で本作は突如豹変する。ブラジリアン・ジャズに深く踏み込んだこの明らかに異質な曲は、南米の灼熱の日差しを思わせるホーン・セクション、情熱的なサンバのリズム、さらにここまでの上品さを覆すように、ジャングルに宿る原始的なエナジーを感じさせる混沌としたポリリズムが乱れ飛ぶクレイジーな展開を作りだしており、この曲があまりにカッコ良いので、正直アルバムの流れとしては「ボーナストラックか?」と思わせるほど唐突な感じがするものの、個人的にはこの曲のあることによって評価がプラスに働いた次第。

 加えて、中盤のまったりした曲で聴けるハービーのリラックスしたソロパートも本作の良いところだと思う。余談的ではあるが、昔、バンドをやっていた時にIbanesのフェイザー(PH7)を使っていて、この機種は波形を変えて多様なフェイズサウンドを作ることが出来るのが面白いのだけれども、矩形波モードのカクカクしたファミコンの効果音みたいなサウンドだけはどんな曲に使えばよいのか分からず(とりあえずシューゲイズでは不要)長年の謎だったのが、「No Means Yes」のファンクパートでこの音が使われていて、なるほど、と目からうろこ的な感覚になった。私の世代だと、エフェクターは90年代以降のオルタナティブロックのギタリストに多用されるものという印象が強いのだが、もともとはこういうフュージョンやファンクの人たちが、ギターに限らず色々なパートで、未来的な感じだったり不思議で珍妙なサイケデリアを演出するのに主に使っていたものなのである。そんな感慨にふけったのも、本作のアートワークの裏面に載っているハービーの自宅スタジオと思われるコクピットのような機材写真を見たからで、サタデーナイトフィーバー的なチャラいアートワークの裏には、音楽マニアとしての良心やセンスがしっかり息づいていることが示されている。
 
 ジャズ界隈ではあまり好かれていない作品のようだが、私のような畑違いのリスナーを魅了する可能性を秘めた良作だと思う。

 ちなみにこれ以降、新しい物好きのハービーは、さらなるトレンドや新しさを追い求めて、ディスコやヒップホップなど、より機械的なサウンドに傾倒していく。『Man-Alive』から続く賛否両論の作品もすべてポジティブな評価をしてきた私も、ここから先はどうなるであろうか。
 
評価:★★★★ 8.0/10

ショートバージョンのオフィシャルMV。当時ヴォコーダーは最新の機材だった模様。