
1stアルバム『失楽園』はジャズやソウルを下敷きにしたクールで洗練された通向けの傑作だったが、今作は「いろいろな表情を見せる、ポップで賑やかでオープンな内容」という2ndアルバムでポップ歌手がよくチャレンジする方向性の作品となっている。アートワークのエラ様七変化にも表出しているように、R&B、シティポップ、J-POP、EDM、アメリカンロック、邦ロック、アニソンなどそのチャレンジは多岐にわたっており、全12曲中9曲が事前にリリースされていたシングル曲ということもあって、ほぼシングルベスト盤のような構成は雑多という他ない。しかし、ELAIZAの圧倒的な声とその表現力で、ぎりぎりまとまりのある1つの作品として繋ぎ合わせているのは凄い。堂々たるポップアルバムである。
一方で雑多な内容ゆえ、人によって曲ごとに好みが分かれてしまうリスクも孕む。個人的に、シティポップやR&Bと言った主に前半に固められている都会的な曲は前作同様に好みで、やっぱりJ-POPとカラオケで育った世代の日本人なんで、シティポップ風J-POP「Night Walk」のsus4→メジャーという泣きのコードの解決感にグッと来てしまう。最近の日本のポップミュージックではXGが圧倒的なのだが、クールな英詞R&B「META」や、歌のトーンの変化が激しいエモーショナルな「ピーチジュース」あたりを聴くと、いやエラ様も負けていない、と熱くなれたりもする。
しかし、中盤以降は良し悪しが曲ごとに分かれる展開となる。いつまでキメとんねんと突っ込みたくなるくらい執拗なキメと過剰に忙しいメロディ、わざとらしく故事やことわざを持ち出す歌詞に歌謡曲的なクドさを感じる、ポルカドットスティングレイのメンバー作曲の歌謡ロック「Freak」や、もっとキャピったアイドルが歌った方が似合うだろうしあまりにオタク迎合的な歌詞に聴いていて気恥ずかしくなる、ねぐせ。メンバー作曲のティーン向けポップロック「ラブコメみたいな恋をした」あたりがどうしてもしんどく、アニソン「スクラップ&ビルド」やアメリカンな「テキトーLOVE」あたりもちょっと違和感があるのだが、それも霞むほどだ。そもそも、ともすれば意識の高い発信や完璧人間的ハイスペックがオタク層にはあまり好まれていない池田エライザが、アニオタ層がターゲットの邦ロックに行くのはミスマッチに思えるし、もともと歌手としての声と表現力がずば抜けているので、ロックをやるならポストロックとかジャズロック、ドリームポップみたいな雰囲気たっぷりでしっとり歌うもののほうが似合っている気がするのだ。
そんな感じで、ロックバンドのメンバーが書いた曲にしんどさを感じてしまう一方、最初電気グルーヴかと思った岡崎体育作曲の「たましい」が、音の作り方や曲の構成、リズム感も洋楽っぽいし、このアルバムの中で一番カッコイイというのが驚きである。お笑いソングを書く人だと思っていたので、こうやって器用にいろんなタイプの曲が作れるミュージシャンだとは知らなかったのだ。おみそれしました。
愚痴もだいぶ多くなってしまったが、全体としては、収録曲の過半数が前作とは違ったエネルギッシュな高揚感を与えてくれるし、ELAIZAの歌手としての表現力の成長も実感できる良い作品である。それに、「曲ごとに好みが分かれる」ということは、逆に邦ロックリスナーが聴いたら自分とまったく逆の感想になるのかもしれないし、私のようなマニア気質のこだわりが無い人ならすんなり全曲滞りなく楽しめるかもしれない。絶対的な評価なんてないのだ。
とはいえ個人的にはどうしても、このアルバムの前半部分のような曲を作るミュージシャンが日本では珍しくなってきている関係上、もうすでにやってる人がわんさかいて手垢がつきまくっているアニソン~邦ロックのほうには行って欲しくないなというのが願ってやまないところであるのだが、現状知名度と音楽のクオリティに比してそこまでハネているようにもみえないため、何よりこの音楽活動を継続して欲しいから多少人気ジャンルに寄り添うのも致し方ないか、とも思い、そのはざまでモヤモヤとしている次第。何かが流行るとそればっかりになってしまう、ジャンルの多様性に乏しい日本の音楽業界の難しいところである。
アイデア1発であまり予算がかかっていない感じのMVもカッコいい。もう1ヒネリいけそうな気もするが、現状では未だに岡崎体育にネタにされてしまいそうなMVばかりな日本の音楽シーンなので、センスの良さが光る。
「ピーチジュース」と共に全編CGで本人が登場しないMVはプロモーションとしてだいぶ攻めているが、いっぽうで内容がそこまで面白いものではないので、ところどころ本人の映像を合成するなど工夫があっても良かったように思う。元々モデル・俳優として活動していたのもあって本人の姿が見たいというファンが多いのはしょうがないのだが、この2曲だけ曲のクオリティに比して再生回数が回っていないのが残念だ。