
いきなり細部の話で恐縮だが、まず特徴的な録音に耳を惹かれた。イヤホンジャック半刺しのときの変な位相というか、鼓膜に張り付くようなドラッギーな音の質感がクセになる。ライブの様子からは想像がつかない繊細な音作りで、ノイズの質感も含めて『Clouds Tastes Metalic』のころのThe Flaming Lipsをも思わせるフェチ的な仕上がりだ。Amoebaで現ギターのライナスがMBV『Isn’t Anything』を挙げていて矢張りと思ったりしたが、むろん純粋なシューゲイズ好きには全くオススメしないものの、数%くらいはたしかにMBVの遺伝子を感じる瞬間もある。また、「Waterboy」で聴けるような地を這うようなアーシーなグルーヴ、ポップなシンセサイザー、さらにVoセバスチャンのバリトンヴォーカルなんかはThe Dandy Warholsのようなセクシーさを醸し出しており、ほんとにスウェーデンのバンドなのかと疑わしく感じるほどだが後にセバスチャンがアメリカ人ということを知り成程と納得。土埃が煙る「Pyramid of Health」などはもはやサザンロックのようなアメリカンぶりである。
加えてサイケ味がなかなか強いのも気に入っている点だ。ギターやベースがヒリ出すノイズは言わずもがなだが、シンセやサックスもサイケデリアを立ち上らせる役割を果たしており、ネットリとした低空グルーヴと粘着力のあるドラッギーなノイズがこそばゆい「Dirty Boys」や「Store Policy」、中毒的なリズムループの上でじわじわとノイズのボルテージが上がっていく「You N33d Me」、サイケデリアの霧が最も深く立ち込める「Best In Show pt.IV」のスモーキーな陶酔感など、単純に高揚感を煽るのみならずダウナーな方向にもリスナーの耳を引っ張っていく。
歌詞も非常に面白い。飽食、不健康な美への執着、他人の不幸のエンタメ化、カルト、お手軽ポルノネットワーク、死蝋化した死体、セバスチャンの飼い犬、非科学的オーガニック信仰、陰謀論、承認欲求、エビなどが登場する退廃的ディストピア・コメディといった様相だが、同時にそんな状況に少しうんざりして疲れている感じがある。私も一緒だ。インターネットやAIは必ずしも人類にとって良きイノベーションとなっておらず、怠惰や不安や絶望を増幅し、人間を不気味に暴走させている。アメリカでディープステイトだのホワイトハットだのレプティリアンだのアドレノクロムだの悪魔崇拝だのといった少年漫画のアイデアになるかすら疑わしい大雑把な設定の陰謀論が流行し、以来10余年、日本ではそれが遅れて波及したせいか、現在でも非常に活発である。もはや呆れ返っていちいち冷笑するのも疲れてしまった。つまり、とてもリアルに共感できる歌詞ということである。
ちなみに本作『Viagr Aboys』を聴いた流れで過去作とも聴き比べてみたが、本作には以前のような勢いや破壊力は無く、表面的にさらっと聴いてしまうと割ともったりした王道ロック、パンクに感じる面もある。しかしよくよく聴けば、ドラッギーなサウンドによるサイケデリアや、ポップなシンセの音、そして歌詞の世界観が、単調さを払しょくして非常に奥行きあるものに仕立てており、聴き飽きしない重層的な音世界になっているのが魅力だ。ゲップやえずきをASMR的に聴かせてしまうサイテーにしてサイコーなセバスチャンの特異なヴォーカルセンスも光っている。最後の「River King」で急にムーディーになって終わるのもウケるが、このあたりもディストピアそのものになってしまった現代社会に圧倒されて途方に暮れている感じがよく出ていて、心に沁みる。
Viagra Boys作品の初聴きだったこともあるかもしれないが、非常に好感度の高い、傑作アルバムであると感じた次第である。