Men I Trust – Equus Asinus(2025)

新譜
新譜

 モントリオールのインディポップ/ドリームポップバンド、Men I Trustによる「Equusシリーズ」の2枚の新譜のうち、先行してリリースされた「Equus Asinus(ロバ)版」5thアルバム。タイトルのイメージ通り、どこかのんびりゆったりした、アコースティックでノスタルジックな曲が集められている作品だ。これを部屋でかけていたところ、ドリームポップを聴くと眠ってしまう妻がにわかに興味を示し、「火サスみたいで良い!」と食いついてきた。カナダのバンドの音源を聴いて「火サスみたい」とはこれいかに、という感じだが、確かにこのアルバムは懐メロ的ノスタルジー成分が濃厚である。フランス語が公用語のモントリオールのバンドらしくフレンチ・ポップのニュアンスが多分に含まれているのだが、日本の昭和音楽というのは割とフレンチ・ポップやシャンソンの影響をうけており、その哀愁を帯びたメロディやクラシカルな音作りには共通するものがある。ゆえに、妻が感じたMen I Trust=火サスBGM、という印象はあながち間違ってもいない。私自身も、ある種の昭和的な懐かしさを感じた次第だ。

 前作『The Untourable Album』では、持ち前のグルーヴィーなリズムを抑制し、洋館の一室で行われる室内楽のような、チェンバーポップ的親密さとメランコリックなムードを強調したサウンドを披露していたが、今作はさらにその路線が深められている。やや地味な曲も多かった前作同様、初めは何回も聴きたくなる内容なのか不安に感じたし、実際に似たようなアレンジやメロディの曲が多いのだが、これが不思議とレトロな哀愁フレンチ・ポップが醸し出すノスタルジアの味わい深く、何度聴いてもなかなか飽きない。特に天気の悪い日や、秋の靄のかかったひんやりする朝には絶妙に合う。最初から最後まで、まったり・しっとり、チルでメロウでメランコリックであるものの、歌詞の内容的にパレスチナへの祈りの歌のように聴こえる「Bethlehem」や、“あなたは私の平和”と言う印象的なラインが、ラブソングにも信仰についての歌にも聞こえる「Heavenly Flow」など、雰囲気モノのBGMでは終わらない絶妙に胸にしみる歌がちりばめられているし、 「The Landkeeper」からは件の火サス的な哀愁ノスタルジアの連発で、「Paul’s Theme」なんかは東尋坊のような海辺の崖地のクライマックスで鳴っていそうな強いメランコリーが詰まった曲である。加えて「Purple Box」のようなアコースティックギターと歌だけでできた曲も、丁寧なアレンジとVoエマニュエル・プルーの優しい歌とメロディが滋味深い。唐突に入ってくる男性ヴォーカルとのデュエット「Girl」は、さながらセルジュ・ゲンスブールとジェーン・バーキンを思わせる、最もフレンチ・ポップのバイブスが色濃い、中盤の聴きどころだ。その後は終盤に至るまで穏やかな時間が流れ続け、最後は「Moon 2」と「What Matters Lost」という2曲のインストで、ベッドの中にもぐりこんでおやすみ、といったような果てしないリラックスムードの中、夢見心地のまま幕を閉じる。聴き終えたあとの余韻もまた格別だ。

 さて、Men I Trustはモントリオールのインディポップバンドとしてそこそこ長いキャリアを持ち、後発のバンドにも影響を与えているように思うが、意外とアルバム単位で名作がないのである。初期はエレクトロなインディ・ポップをベースにしつつもまだ音楽性がまとまっていなかったし、ヴォーカリストがエマニュエル・プルーに確定した『Oncle Jazz』ではたくさん曲を詰め込み過ぎて散漫になり、その割にキャッチーなシングル曲をアルバムに入れなかったりと、曲単位でファンは多いが、アルバム単位としては、雰囲気作りのBGM的に聴かれているケースが多かったのではないかと思う。今作は、収録曲は多めではあるものの雰囲気の違うノリの良い曲を『Equus Caballus』に分けてリリースしているからか、まとまりがあって、聴き飽きない。耳を引き付けるキャッチーなシングル曲がないので代表作と呼ぶには当たらないが、これまでで一番完成度の高いアルバムに仕上がっている。どんなに精神が昂っていても、不安や不満に心が惑っていても、これを聴くとすぐに緊張がほどけ気持ちが落ち着く、チルアウト系インディ・ポップの傑作である。

評価:★★★★ 8/10

昔の火サス風のサウンドとメロディが強烈な曲。アルバムでは幕間曲のような役割だが、この狂おしいほど哀愁漂うメロディがツボな日本人は多かろうと思う。