53 Thieves – No Ocean(2025)

新譜
新譜

 今から5年ほど前、仕事の作業BGMがわりにYouTubeで音楽を聴いていたところ、彼らのデビューEP『After Hours』が突然出てきて、そのメロウ&スムースなサウンドに惹かれ、それ以来素性もわからないままハマっていた。未だに彼らのプロフィールが曖昧だったので、流石にあんまりだと思い今回のレビューを機に調べてみると、UKリーズのデュオDenton Thriftのコナーとジェス、USのプロデューサー?ビートメイカー?(ヒップホップ界隈に疎いため、この辺りの作曲家を意味する用語が未だにモヤっとした感じで恐縮です)として活動するウィル(Pryces)とケイレブ(Ronin)との英米コラボレーショングループであることをようやく知るに至る。それぞれの音楽を聴いてみて分かったのだが、53 Thievesの音楽はドリーミーなエレクトロ・ポップ、オルタナティブR&B、ネオソウル、ヒップホップ、ダウンテンポ、ヴェイパーウェイヴなど4人の持ち味が等分にブレンドされて成り立っているようで、その結果、ありそうで無かった「エレクトロ、クラブミュージック側からのドリームポップへの接近」のような音楽性が生み出されたようだ。Men I TrustやTokyo Tea Roomなどのソウル、エレクトロ寄りのドリームポップバンドと近しい音世界になっているのもまた興味深い。

 一方で、2022年に出たデビューアルバム『Latitudes』は、オルタナティブR&B〜ネオソウル〜ヒップホップの要素を強めたグルーヴィかつクールな意欲作だったが、デビューEPにあった甘いメロディやドリームポップ的な夢見心地感、スペーシーな奥行きは薄れてしまい、個人的に寂しい面もあった。

 そんな前作から3年ぶり、5曲入りEPとなる本作『No Ocean』ではふたたびドリームポップ的な音像が復活している。ローファイビーツ的なノスタルジアとスペーシーな近未来感が混ざり合う音空間を基礎として、コナーとジェスによる美しくもロマンティックなオクターブ・ユニゾンにうっとりさせられる「Outside」「Presence」、リバーブたっぷりのサウンドに包まれた甘いメロディにとろけてしまうドリーミーな「All This Time」、一転して機械的なベースとビートが織りなすクールなグルーヴが近未来感を盛り立てる「Caught Up」まで大満足の仕上がりで、どの曲も、緊張感や無駄な神経の昂りを落ち着けてくれる効果が抜群の絶妙なチルミュージックだ。この路線のフルアルバムも聴いてみたくなったりもするが、「あと20分くらい、ちょっとなんか聴きたい」という瞬間が自分にはよくあるので、ミニアルバム的な長さの作品でもけっこう嬉しいし、それが傑作であればなおのこと幸せである。

評価:★★★★☆ 9/10

全5曲のダイジェスト版MV。ローファイビーツやヴェイパーウェイヴ系の世界観がよく似合っていて、お酒を飲みながら見ていると、VHS時代を経験している身として何とも言えない気持ちになる。