
音楽性は作品ごとに変化が大きいものの、ベルリンのバンドだけあって、どこかクラウトロック的なアート性や実験性、ミニマルな引き算のサウンド、トランシーなサイケデリアがベースにある。過去には小屋を改築した自作スタジオで「家そのものを楽器として使う」といった実験的なサウンドプロダクションを行ったアルバムがあったり、自作の長編映画+サントラを制作したり、といったバンドというよりもアーティスト集団のような活動をしていて、この辺もクラウトロックっぽいたたずまいを見せている。
しかしこの本作、実験性ももちろんあるが、過去作に比べて最も聴きやすいポップな仕上がりである。大雑把に分類すれば、初期Pink Floydやクラウトロックなどのレトロな質感をベースにしたMGMT以降のシンセ主体のサイケポップで、甘美なメロディとふにゃふにゃしたスペーシーなサウンドが極上のサイケデリアを生み出している。一番最初のアルバム表題曲「The Room」は、男女の脱力ヴォーカルと鼓膜をなでつけるソフトなシンセの音が心地よい、まさに昨今のサイケポップらしい曲となっているが、「HBW」からは、クラウトロック的なモトリック・ビートとトランシーな反復をベースに、隙間だらけのスカスカな音空間とスペーシーな音響処理が施されたトリップ感のあるサウンドを展開、ここで初めて、この『The Room』という彼らの部屋は宇宙に繋がっていて、リスナーはリラックスした状態のままいろいろな空間に誘われることになる、ということに気付かされる。続く「Rythm A」では、酔っぱらいのような酩酊したアレンジと、バスルームで歌っている鼻歌を聞かされているような強烈にサイケな曲で、キモいけど気持ちいい、最高の快感を与えてくれる。さらにメロウな「Groovin’ With The Eternal Now」では、常春の花畑で布団にくるまれながら、どこまでも沈み込んでいくような甘美なダウナーさに頭がメロメロにさせられる。ノスタルジアと切ない祈りが交錯する、JJ Weihlのヴォーカルがとにかく美しい「Feel Better」もとろけるような心地よさだ。優しいメロディを美しいハーモニーと共にボソボソ唄う、60’sスタイルの昔ながらのサイケポップ「Just The Rain」も実に胸染み入る。キノコがぽこぽこ生えてくる森の中にいるような牧歌的な「HAHA lol」など、カンタベリーシーンやその影響を受けたGorky’s Zygotic Munciあたりを豊富とさせる瞬間もあり。最後は夢幻のシンセに包まれながら2つの帰り道を提示される「Two Doors」で終演。全体的に派手さはないものの、音、メロディ、情景などそれぞれの要素がとにかく気持ちよく、没入感の高いサイケポップの傑作である。
ちなみに本作以降、どうやら解散か活動休止かしてしまったようで作品が途絶えており、それぞれのメンバーはソロ活動で作品を精力的にリリースしているが、中でもLucas UfoによるWorld Brainの作品が本作に近い雰囲気のため、本作は彼の影響が強めに出た作品なのかもしれない。なおJJ WeihlはDicovery Zoneという名前でエレクトロポップな作品をリリース、Jonathan JarzynaはJohn Moodsという名義でDiscovery Zoneと共作をリリースしたばかり、Lucas Ufoは前述したWolrd Brainで幻惑のサイケポップを展開しており実はここが私がFensterを知ったきっかけである。Spotifyのイベント情報によるとどうも最近ライブをやっているようなので、今後また復帰するのか注目だ。
DIY感あふれるバンド自作のMV。後半のローテクCGによる雑コラサイケデリアがイイ感じで気持ち悪い。