シングルレビュー2025年3月

新譜
新譜
最近過去のジャズファンク、フュージョン、ソウルの名盤を聴くのに夢中でちゃんと新譜(特にアルバム)が追えてないが、まあそれでもいいんだ。最近のインディ音楽を聴くのに、この辺の文脈を抑えるのはけっこう重要だ。あと個人的に「R&B」って何なんだろうな、というのが最近気になるテーマである。何がR&Bで何がR&Bではないのか、ソウルと何が違うのか、違わないのか、なんとなく「ロック」と同じくらい曖昧で広い意味合いを持つ言葉なんだろうなというのはうっすら見えているんだけど、意外とよく分からない。
まあそれはさておき、そんなこととは無縁の3月のシングルレビューである。

Vinyl Williams / Find The Hidden


ほんと精力的なアーティストだなと。LAのマルチ・サイケデリック・クリエイターVinyl Williamsの新曲。この前ちょいと充電モードなのかな?とか書いた矢先にニューシングル。いつになくリバーブが無いデッドや音作りだが、相変わらず転調を畳み掛ける先の読めないコード進行が異世界へ連れていかれそうな良い意味での(つまりサイケな効能としての)気持ち悪さがあり、最高である。さらに自作のMVは久々のインタラクティブ仕様で、スマホで見ると360度空間が作りこまれていて面白い。ところどころ雑コラ感があるのもユーモラスだが、後半真後ろにキーボディストや女神がいたりと遊び心とインタラクティブ性が抜群である。
そういえば先日、岐阜にある養老天命反転地に行ったのだが、ここの庭園はVinyl Williamsのアートワークに似ており、サイケなテーマパークといってよいかもしれない。伊東のハトヤと養老天命反転地は、VWをBGMにして歩くとかなりキマると思う。

Phoebe Rings / Drifting


去年のデビューミニアルバムの傑作ぶりも記憶に新しいニュージーランドのPhoebe Ringsが早くもフルアルバムを完成させたようで、その先行シングルとなる新曲。ジャズやソウルへの接近を見せるドリームポップ界隈でもかなりジャズ・ソウル寄りの音楽性で、ちょっぴり切ないメロディにソウル風のグルーヴが心地よい「Drifting」と、90年代以前のジャズ要素が混入していた時代のJ-POPを彷彿とさせる韓国語詞の「Aseurai」とさらにその傾向が強まっていて、つまりちょっとシティポップっぽい。今月は男性ヴォーカルの新曲もリリースしているし引き出しの豊富さは今なお計り知れず、アルバムへの期待感は高まる一方である。

Yndling / As Fast As I Can


こちらも昨年来からハマっているノルウェーのYndlingの新曲。いやあ出す曲全部イイ。今作はシンセのリフレインが効いたニューゲイズなサウンド。ベッドルームポップが流行ってから女性ソロアーティストは非常に増えたように思うが、彼女のサウンドはベッドルーム的なミニマムでローファイな方にはいかず、バンド編成のオルタナティブ・ロック寄りの壮大な方面に向かっているのが素晴らしい。特有の甘い歌い方もユニークで、聴けばすぐ彼女の歌と分かるのは百花繚乱のこのジャンルにおいて強みである。

Honey I’m Home / Wishful Thinking


どこで知ったんだっけか、Spotifyのオススメかインスタのプロモだった気がしたが、オランダのバンドでこれがデビューシングルとのこと。まだほとんど曲を発表していないのでどういうバンドなのかは断言できないが、シューゲイズに影響を受けた歌モノオルタナティブギターロックという感じがする。特にこの曲に限っては、ヴォーカルは割としっかり歌い上げてはいるものの、男女混合ヴォーカルのハーモニーと、トレモロアームやフェイザーをかました正統派なギター志向のシューゲイズサウンドで好感が持てる。

Feeble Little Horse / This Is Real


ペンシルベニア州ピッツバーグ出身のシューゲイズ/ノイズポップバンド。アメリカのシューゲイズはグランジやSonic Youthなどのノイズロック、Flaming Lipsなどのサイケポップ、TortoiseやThe Sea and Cakeあたりのシカゴのエクスペリメンタルなインディポップがぐちゃっと混ざって独特なサウンドとなることが多いが、このバンドはそれが突出した感じで、この曲の奇天烈さ、特に序盤のへろへろな脱力ボーカルからのブチギレノイズに一発で惚れた。デスボイスからアウトロはGrandaddyみたいにふにゃふにゃになるのも面白い。Swirliesとか、同世代だとThey are gutting a body of waterが近しい感じがするが、実験的なアレンジと同時にしっかりとポップにメロディを聴かせるのが強み。

Supergloom / sideFX


こちらはLA拠点のシューゲイズバンド。転調を伴う甘いメロディと濁ったコード感はドリーミーだし、それでいてしっかりとした量感のあるディストーションギターとトレモロアームによるピッチベンドなど、古式ゆかしいシューゲイズ・サウンドが心地よい。界隈でもあまり知られていないのか、再生数もイマイチだしMVもすごい低予算な感じなので(サイケで良いんだけど)応援していきたい。

Blankenberge / Escape


ドリームポップやシューゲイズの音楽レビューでよく使われるEtherealという言葉そのものな感のある、幽玄にして優美な、大空を滑空するかのごときホーリーなシューゲイズは相変わらずである。似たようなアートワークで立て続けにシングルがリリースされているが、アルバムが出るのだろうか?

Swervedriver / The World’s Fair EP


シューゲイズ系のシングルを立て続けに書いてきたが、ここでさらにレジェンドバンド、Swervedriverの4曲入りシングルである。大好きなシューゲイズバンドが往年と変わらないサウンドでいまだに新作を出してくれることが嬉しい。シューゲイズと言っても、彼らのサウンドは少し亜流で、Dinosaur Jr.などのグランジや、ガレージサイケ的な土臭さを感じさせる、浮遊感よりもドライブ感が強い渋くて男臭いところが特徴だが、ザラついたディストーションギターと哀愁のメロディのアンサンブル、そしてシューゲイズバンドらしからぬパワフルなグルーヴが気持ち良すぎる。4曲入りのシングルであることが残念なほど良曲ぞろいで、ぜひアルバムを出していただきたいと贅沢を申してしまう。

No Suits In Miami / Crying At The Club


このバンド全然知らなかったのだけど、これはウケる。80年代の未知のギターポップバンドがまた発掘されたんか?というくらいあの時代の音の再現度が高くて笑ってしまう。Strawberry Wineの頃のMBVとか、Sarah Recordsのバンドとか、あのあたり。スウェーデンのバンドらしいが、バンド名から何から時代も場所も混乱させられる楽しいバンドである。

Mei Simones / I can do what I want


アルバムのリリース日が迫ってくると、先行シングルはあまり聴きたくなくなってくるものです。なんかアルバムの一部だけ先に聴き倒して新鮮さを損ねてしまうのがイヤな、アルバム単位で楽しみたいアルバム脳のリスナーなのです。もうここまでのシングルで良い内容であることは分かっているので、あとはアルバムを待ちましょう。

Pami / Pity Dirty


プーケット出身のシンガーソングライター。基本は80’sのシンセポップ、ソフィスティポップ(つまりはざっくりシティポップ的な)をベースにしているようだが、このシングルはローファイファンクなR&Bでセンスが良い。MVのムードと合わせて南国の幻想を掻き立ててくれる。
タイは音楽もいいし料理もおいしいし、移住できるものならタイに行きたいなあと以前から思っているのだが、なかなか叶いそうにないのである。とりあえずタイミュージックを聴きながらカオガパオを作って気を紛らわそう。

Youra / A Side


韓国インディのシンガーソングライターの4曲入りシングル。K-POPが世界各国で人気を得る一方で、Youraのようなオルタナティブなミュージシャンが育っているのは韓国音楽シーンの健全性を示しているが、同時にインディの国内市場規模は小さいらしく、フルアルバムを制作するインディミュージシャンがあまり見られないのが惜しいところ。このシングルは歌モノではありながら、オルタナティブ/サイケデリックなアレンジが施されたバンドサウンドによる個性的な作品で、K-POPがお手本にしているデジタルに頼りがちな欧米のポップアイコン的なシンガーソングライターともまた一線を画しており、面白い。

Night Swimming / In The Real World


最後はブリティッシュ・ドリームポップでは期待の新人バンド、Night Swimmingの新曲。同じジャンルにNight Tapesもいるので若干紛らわしいが、Night Swimmingはバンド名の通り水面を伝うようなリバーブたっぷりの透き通るギターサウンドとVoメグ・ジョーンズの憂いを秘めた甘い美声が魅力の水々しい音楽性である。去年のミニアルバムも良かったが、Cocteau Twins風のヴォーカルエフェクトが彼女のヴォーカルの良さ、繊細な感情の揺らぎをぼかしてしまっていた側面もあり、エフェクトが薄いライブ動画のほうが良かったりしていたのが、この曲ではかなりイイ塩梅。
そしてマスタリングはSlowdiveのドラマーサイモン・スコットが担当していて驚いた。というか普通に以前からマスタリングエンジニアとして活動してたようだ。多彩な人である。
しかし最近の若手バンドは日本も含めて夜関連のバンド名が多過ぎるような……。