Everything Everything / Arc(2013)

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 デビューアルバムで一際輝く才能の片鱗を見せ、マーキュリー・プライズにもノミネートされたEverything Everything。引き続きメジャーレーベルから満を持しての2ndアルバムである。当時は『Man Alive』のオルタナティブでクールなサウンドに魅了されていたため、さらなる音楽性の変化を見せてくれるのだろうと期待していたところ、音楽的には派手な変化がなく割とオーソドックスな構成の曲が多かったため、意外と保守的なバンドなのだろうかと拍子抜けした記憶がある。今聴いても彼らのキャリアを通していちばん印象の薄いアルバムである。後々EEはアルバムごとに明確なコンセプトを設定するアートロック的な姿勢を強く打ち出すようになるが、このアルバムではまだそれも希薄で、かつ1stのような飛び抜けたシングル曲もない。アルバムの流れも良いとは言えず、1枚通して聴くと少し散漫な印象を残す作品だ。
 一方で、歌詞においては明確に変化が現れており、難解と言われることもあった『Man Alive』の心象風景を張り巡らせるコラージュアート的な歌詞から、歌の主題やメッセージ性が具体的に表れた歌詞になった。また、現代社会に対する問題提起や、奇妙な語感でフックを生んだりする、後のEEではお馴染みの特徴も強まっている。その甲斐もあってか、一聴すると地味だが歌詞を注意深く紐解いていくと音楽と結びついて新たな魅力が次々湧いてくる、1曲1曲飽きの来ない作りになっている。

 先行シングルにもなった冒頭「Cough Cough」はムズムズするようなジェレミーのベースラインと、三連符を強調したトリッキーなマイケルのドラムが形成する複雑なグルーヴがまずカッコイイが、歌詞もストレートにマネーゲームを行う社会批判の内容となっていて、アグレッシブな幕開けである。続く「Kemosabe」は彼ららしい早口で密度感のある歌と、R&B的なシンコペーションが強調されたリズムを持つ曲。よくわからない言葉遊び的なヘンテコ歌詞がやたら耳につくが、これは有名な西部劇ドラマ「ローン・レンジャー」を題材にした歌詞のようで、暗い印象のアルバムのなかにあってひときわユーモラスな印象を振りまいている。一転してダークな雰囲気の「Torso Of The Week」では、働く女性がつらそうにエクササイズに励む様子に疑問を呈する歌詞だが、この「何かに駆られて自分を不健全な状態に追い込む現代人」というテーマは今後たびたび描かれることになるEE定番の内容で、興味深い。単音ハーフミュートのコチョコチョとしたギターとベースのアレンジがキモカッコよい変わり種の曲「Choice Mountain」では、「色んな可能性を秘めているのに“自分にはどうせ何もできない”とふさぎこむ人」を様々な動物を引き合いに出しながら切ない調子で歌うジョナサンの歌に癒される。ここまでは前作とまではいかないまでも、非常に良い内容である。
 中盤から後半にかけてはアルバムのテーマに迫る深い内容で、2010年に発生したラウル・モートによる殺人事件や、2011年の暴動など、イギリス国内で発生した不穏な事件を背景に、『Arc(弧)』、つまり先進国の盛衰、特に行き詰まりと衰退に直面している現代社会の下り坂を想起させる暗い内容となっている。目の覚めるような鋭いデジタルサウンドが切り込んでくるめちゃくちゃカッコイイエレクトロ・ファンク「Armourland」もあるが、全体的にはメランコリックでどんよりとしたムードが漂っており、「The House Is Dust」といったジョナサンのファルセットが美しいミニマルな曲が印象的だ。

 といった感じで、曲としてはどれもよく作りこまれていて聴き応えがあるのだが、一方でこれをアルバムとして並べたときに、冒頭に述べたような流れの悪さが気になってくる。特に中盤以降の不安感や無力感、憂鬱感を表現した曲の持つダウナーさが、彼ら魅力の1つであるダンサブルでアッパーな曲といまいちかみ合っておらず、いずれの良さも相殺しあってアルバム全体に鈍い印象をもたらしている。最後のポジティブな雰囲気に満ちた「Don’t Try」はオクターブを駆け巡るアレックスのギターがカッコいい曲で、盛り上げて最後を締めくくろうという意図は感じられるものの、中盤以降のドンヨリしたムードが思いのほか重たいため、これを払拭してカタルシスを得るまでには至らず、モヤっとした印象を残したまま終わってしまう。もう少し希望を提示した終わり方だったり、むしろ逆にもっと深刻なムードに叩き落されるようなダークさだったりがあっても良かったような気がするが、それは後のキャリアでそれぞれ結実することになる。

 バンドは次作『Get To Heaven』で傑作をものにするが、それはRadioheadのように「アルバムを出すごとに自分たちの音楽性を刷新していく実験的オルタナバンド」としてのものではなく、本作と地続きとなる「自分たちのスタイルはあまり変えず、ソングライティングやアレンジでリスナーを魅了し続ける知的なポップロック職人」としての作品作りである。つまり本作は過渡期のアルバムであると同時に彼らの転機ともいえる、地味ながらも重要な作品だ。同時に「Cough Cough」や「Kemosabe」といった人気曲を生み出しているのも見逃せないし、近作ではあまり聴けなくなったテクニカルでトリッキーなバンドアンサンブルが楽しめるのも本作の良い点である。

評価:★★★ 6/10