
SaultはLittle Simzとの仕事で有名なプロデューサー兼マルチ奏者Infloと、シンガーソングライターCleo Solが中心となり、そこに様々なミュージシャンがゲスト参加して作品を作り上げているプロジェクトだが、異常なまでの多作で、2019年の活動開始からすでに13枚のアルバムをリリース。年に数枚出すことも普通で、1年間に5作出していることすらある。2026年になってもいまだに2025年の新譜が聴き切れていない私には、当然Saultの膨大なアウトプットすべてを追えるはずもなく、今のところ本作『10』とその前作の『Acts of Faith』の2作品を主に愛聴している次第である。
Saultの音楽性はロンドンのシーンの中でもとりわけ多岐に渡り、作品ごとに少しずつ趣も異なるため、まだ2作しか聴いていない状況ではあまり包括的な解説は出来ないが、本作においては、アフロビート、ファンク、R&B、ソウル、ゴスペル、ジャズ、フュージョンなど、あらゆるブラック・ミュージックのエッセンスが凝縮しており、それらが軽快なグルーヴと滑らかで優雅なメロディで華麗に紡ぎ合わされて、心地よい高揚感に包まれた作品となっている。近年はサンプリングや打ち込みなどのクラブ系のサウンドが売れ線だが、やっぱりブラック・ミュージック独特のグルーヴ感や空気感は生演奏にこそあると思うので、この優雅で伸びやかなエナジーに満ちたサウンドは大好物だ。アフロビートの性急なパーカッションが心地よく体を揺らしてくれる「T.H.」や、ファンキーなベースといかがわしいのシンセのリフが気持ちいい「P」は元より、高揚感あふれる曲の中でチルタイムを与えてくれる「H.T.T.R.」といった曲でも、生音ならではのバイブスを楽しむことが出来る。
また、これだけハイペースなリリースにも関わらず、一切雑さやチープさを感じない、ハイクオリティな仕上がりなのも驚きである。Cleo Solのエモーショナルで美しい歌唱が光る「S.I.T.L.」や、アルバムに散らばった全ての要素が1曲に込められているようなプログレッシブな展開の最終曲「S.O.T.H.」の高揚感は至高だ。
ちなみに本作のタイトルはすべて歌詞のワンフレーズを省略したものになっているが、昨今の不気味な社会情勢を背景につつ、平易な言葉でポジティブ・メッセージを繰り返しリフレインする歌詞には、ぐっと元気づけられる。スピリチュアルというか、神とか信仰とかアーメンとかいうワードが出てくるキリスト教的な世界観ではあるものの、このあたりはゴスペルの影響が色濃く残っていた昔のアメリカのR&Bやソウルを思わせるし、信心の欠片もない不心得者な私にもシッカリ届く普遍的な表現に落とし込まれているのが素晴らしい。
ほかの作品もなかなか良さそうで、好奇心は尽きないが、そうこう言っている間にSaultは2026年の新譜もリリースしているし、Saultに関係する人たちの作品(メインヴォーカルのCleo Solの作品にもInfloが絡んでいたりとか)もたくさんあり、かつ他のUKブラックミュージックも掘り進めたい気持ちもあったりで、物量を考えると今年いっぱい行う事業のような気がして途方に暮れてしまう。いっそのこと、今年は一切新譜を聴かず、じっくりと特定のルーツを掘り進めるのも良いかもしれない。