Haiku Garden – Gradient(2025)

新譜
新譜

 スロベニアのサイケバンドHaiku Gardenの3rdアルバム。俳句?日本語?ということでまずバンド名が気になったのだが、実際に「俳句の庭」という意味のようで、ハワイにも同名の施設があるらしい。とはいえ音楽性が特別日本ぽいとかそういうことはないのでバンド名の由来は置いておくとして、基本的にはハイブリッド型のバンドで、2018年のデビューアルバム『Where If Not Now』ではサイケデリア強めのシューゲイズサウンドを展開し、2022年の2nd『Loose Contacts / Tense Present』ではロックのグルーヴ感と実験的なアレンジを兼ね備えたオージーサイケ勢を彷彿とさせる刺激的なサイケデリック・ロックへと変化。そして本作では、そのディープな音楽的探究を礎にしつつポピュラーな領域へと浮上、ギターロックらしい躍動感や高揚感のあるメロディの中に、シューゲイズのノイズ、ドリームポップの甘さ、ネオサイケデリアの陶酔感やトリップ感を織り込んだオルタナティブ・ロックへと進化した。そして同時に、これまでの作品では英語だった歌を、全曲スロベニア語詞にするという試みも行っている。

 正直英語詞ですら聴きとるのに四苦八苦の日本人からすると、さすがに何を歌っているのかまで理解することは難しいのだが、おそらく母国語から醸し出されたものであろう、歌謡曲のような哀愁や素朴さを含む歌メロには親しみやすさを感じるし、スラブ系の言語にドイツ語やイタリア語が混ざったようなスロベニア語の語感そのものが音楽的にとても興味深い。そのうえで、未知の国スロベニアのエキゾチックなバイブスも感じ取れて、そこがすごく良い。
 「音楽に国境はない」とも言われるが、実際は「歌」を聴く上で言語は非常に重要だ。歌が主役となるポップス領域においては、ライトなリスナーが母国語と英語以外の言語で歌われるポップソングを聴くことはほぼ無いが(日本では英語すらも避けられる)、ことサイケ、シューゲイズ、ドリームポップと言ったジャンルにおいては話が違ってくる。歌詞の意味を知らないと楽しめないジャンルではないから、ぶっちゃけアゼルバイジャンのサイケバンド、ボリビアのシューゲイズバンドなんてのがいたとしても楽しめてしまう。なので、私はサイケ、シューゲイズ、ドリームポップといった音楽を通して、日本では馴染みのない海外の文化や社会、気候や景色に触れて、想像して、音を通して世界を旅している気分(まさにトリップ)に浸るのが好きだ。お金があれば、実際に飛行機に乗って現地に行けばいい話なのだが、そういうわけにもいかない暮らしぶりなので、SpotifyやYouTube、Bandcampで私は世界旅行をする。そうした意味で、本作のスロベニア語詞によるソングライティングは、個人的にとても魅力的に感じた次第である。

 本作『Gradient』は全体的に90~00年代のUKギターロックを感じさせる内容で、メロディアスな歌と力強いバンドアンサンブルが高らかに鳴り響く「Avalanš」(雪崩)、メランコリックなアコースティックギターの弾き語りから始まりエモーショナルに盛り上がっていく「Zamenjal mrak bom za dan」(暗闇と昼を取り換えるよ)、といった曲は最初こそシンプルに聴こえるが、耳を凝らせば変幻自在のエフェクティブなギターやそれを取り巻くようにリバーブの効いたシンセやサウンドエフェクトが広大なアンビエンスを形成しており、このあたりはこれまで質の高いシューゲイズ、サイケデリアを生み出していたバンドだけあって、ただポップなだけではない奥行きのある音空間に仕上げている。軽快なリズムとポップなハーモニーを聴かせながらも、量感のあるツイン・ギターが時にノイジーに、時にサイケデリックに鼓膜を刺激してくる「Kahuka」も楽しい。昨今テクノやブラックミュージックのループ的なノリを取り入れていることが多いインディロック界隈において、歌と一緒にギターもリズム隊もエモーショナルに盛り上がっていく本作の伝統的なロックバンドのアレンジはむしろ新鮮だ。こうしたサウンドからしか得られない高揚感があるな、と改めて感じさせる、痛快な曲の連続である。
 いっぽうアルバムの核となる後半のシングル曲だけはエキゾチックなムードを醸し出しており、これもまた非情に良い。ファンタジックなサウンドと甘い転調を繰り返すメロディがドリーミーな傑作サイケポップ「Vpet」からは、彼らが拠点とする首都リュブリャナ旧市街のファンタジーRGPのような街並みが浮かび上がるし、スロベニアのシンガーMalidahを起用した「300,000」は哀愁と寂寥感の滲む歌謡曲のバイブスが染みる。とはいえ、母国のルーツを強烈に押し出したAltin Gunのような分かりやすいエキゾチックさはなく、音楽だけとるならば真っ当な欧州型のオルタナティブ・ロックなので英語で歌えばもっと売れそうな感じもするが、スロベニアの言葉で歌われることでしか表現できないムードがあるのも確かだし、私のような遠く離れた極東の国に住まう者が(元々サッカー関連で旧ユーゴの国々に興味があったとはいえ)スロベニアという国自体に音楽という身近なコンテンツを通して好奇心が持てるのは貴重なことである。色々な意味で、非常に意欲的な力作であると感じた次第だ。

 実はかねてより、旧ユーゴスラヴィア圏のインディバンドを探していたのだが、思いもよらずこのスロベニアのHaiku Gardenに出会えてうれしかった。アルバムのリードシングル「Vpet」のMVをVinyl Willamsが制作していた縁で知ったのだが、サイケデリアを介してつながる音楽の縁に感謝である。初期のシューゲイズな作品もかっこいいので、今後そちらも紹介していきたい。

評価:★★★★ 8/10

相変わらず強烈なデジタル・ノスタルジアとサイケデリアが交錯する、Vinyl WillamsよるMV。