Biche – B.I.C.H.E.(2025)

新譜
新譜

 パリのバンドBiche(ビーシュ)の2ndアルバム。1stアルバムから6年のブランクが空いた間にその音楽性は大きく変化、初期のメロウでレトロなサイケポップから、フレンチポップ+音響系インディポップ+ちょっぴりクラウトロックといった感じの音楽性へとシフトチェンジ。クラシカルな楽器とシンセの電子音が融合している感じや、洒落たコーラスなど、ぱっと聴いてThe Sea And CakeやStereolabが思い浮かぶようなサウンドだが、マニアックな音響実験やモトリック・ビートの長尺ループなどディープな要素はなく、フレンチポップ由来の甘いメロディが曲の骨格になっていて、あくまで親しみやすい音楽性だ。特に瞬間的な転調によるトリッキーなコード進行が白昼夢のようなムードを演出しており、本作を知ってからしばらく中毒的に聴いていた。ほとんどリバーブを使っていないにも拘らず、メロディと和音のニュアンスだけで非常にドリーミーな音世界を構築しているのが素晴らしい。

 1曲目の「Une Brève Interrogation」からもうとろけるようなメロディで、優雅なストリングスやピアノと重なるようにKraftwerkっぽいレトロな電子音が混ざっているアレンジも秀逸。続く「Déjà-Vu」もガチャガチャしたメカニカルなヴァースからふわっとドリーミーな世界へシフトする展開が心地よすぎである。このあたりはモントリオールのCorridorも思わせるのだが、そもそもSpotifyでCorridorを聴いていたらオススメでこのアルバムが流れてきたのであった。
 ちなみに本作は一部を除いてほぼ全編フランス語による歌詞だ。「Brève Interrogation sur les Cycles Humains Éternels(永遠の人間の循環についての簡潔な考察)」というキャッチコピーが提示されている通り歌詞の内容も知的で面白そうだが、あいにく大学の一般教養でかじった程度では到底何を歌っているのかまでは分からない。ただ、このフランス語でしか醸し出せないニュアンスというのか、語感が非常にくせになる。アップテンポの「Le Code」もコーラス最後のQue le code / Semble avoir ècrit de traversの部分がシッカリ耳に残る。フランス語の曲はたびたび聴くことがあるが、ここまで耳に残って口ずさみたくなるのは初めてだ。
 インディポップ調の軽快な曲が多い一方で、ミドルテンポで非常にうっとりとさせる印象派のような「Labrador」もあったり、フランスのミュージシャンとコラボした「Americanism」や「Ça va?」では一転してひょうきんな一面も見せるなど、引き出しの多さも魅力だ。ちょっととっ散らかりそうだな、と思わせながらも、すぐにアップテンポでスリリングな「La Spirale」で、曲名通りスパイラルに落ち込んでいくようなループと、非常にステレオラブイッシュなラ・ラ・ラの女性コーラスが入って序盤の路線に戻ってくるバランス感覚も良い。最後は盛り上げるというより、白昼夢の彼方に消えゆくような淡い終わり方だが、1曲目の「Une Brève Interrogation」に再接続して終わる統一された世界なので聴き終えた後の余韻も心地よい。非常に小気味よい傑作である。
 
 1stアルバムで展開しているサイケポップも非常に甘々な世界で気持ち良いのだが、オーガニックなフレンチポップにレトロフューチャーな電子音とジャングリーなギターが絡まっているこのスッキリと洒落た音楽性の方が、彼らの特有のメロディや歌の良さが輝いている。この音楽性でもっと作品を作ってほしいなと思った。

評価:★★★★ 8.0/10