Luminous Orange – Waiting For The Summer(1997)

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 毎年夏になると必ず聴くアルバムというのが何枚かあり、日本のシューゲイズ/ドリームポップの先駆者でもある竹内里恵率いるLuminous Orangeの2ndアルバムもそんな「人生の夏アルバム」の名盤である。

 本作は初期のLuminous Orangeの集大成的内容である。1stアルバム『Vivid Short Trip』で粗削りながらも鮮やかに聴かせた、変幻自在でフローラルなドリーミーギターポップという個性。それを大きく広げ、Lucy Van Pelt(後のAdvantage Lucy)のメンバーでもあったBa坂本和子とDr番場要によるスリーピース編成とともに、アコースティックな楽器やシンセサイザーを加えてより広大なスケール感と深い陶酔感を伴う完成度の高いポップサウンドにまとめ上げた。それは竹内里恵のルーツである4ADレーベルのバンドのPale SaintsやLush、Cocteau Twinsといったバンドや、ドビュッシーやラヴェルといった印象派の作曲家たちの持つ自然の幻想美を感じさせる、甘く夢見心地な世界。同時に、ノスタルジックな日本語詞の曲との相乗効果もあり、不思議と日本の田舎の風景を思わせる「夏休みの幻想」といった世界観がアルバム全体を覆っている。(そもそも「夏を待つ」=夏ではない季節が作品世界の設定ではあるのだが、それゆえ幻想的な夏のムードが表現されているように思う)

 このアルバムに関しては全曲好きなのでどれも甲乙つけがたいが、MBV「Lose My Breath」のような音響シューゲイズをドリーミーに消化してさらにドラマチックなポップソングに仕上げた「Key for Spring」は涙が出るほど美しい曲で、ドリーミー・シューゲイズの名曲である。さらに、ギターのアルペジオと竹内里恵のひらひら舞うようなファルセットが美しい「Flame Flower」、素朴なフォーク調のサウンドと70年代の日本のSSWを思わせる日本語詞がノスタルジックな「Waiting for the Summer」、幻想的なピアノ引き語り曲「Sheet Music」といった素敵な曲が続き、森の木陰で自然に包まれながら涼しい風に吹かれているような、心地よい陶酔感に魅了される。いっぽうで、Breedersのようなパワーコードに甘いメロディが融合している「Hot Caramel」や「Garden of Stones」などで聴けるトリッキーな曲構成や変則的リズムは前作以上に鋭さを増しているが、同時にメロディが非常にポップに聴こえているのが巧妙で、ダブ風のベースとともに深みのあるサウンドとロマンティックなギターソロにうっとりさせられる「The White Moon」などはSlowdive「Souvlaki Soul Station」を想起させつつも独自の世界観を保っており、随所に当時の日本のバンドとは思えないセンスを発揮している。幻想とノスタルジアのポップワールドを締めくくる最後は、バイオリンやバグパイプを取り入れた優雅な「The Winter Sun」と「I Can’t Move」で、まるで目が覚めたように現実へと戻っていく。聴くものをホッとさせるような優しい終わり方である。

 2025年8月現在、本作はサブスクで聴けず、というかルミナスの作品は全般的にデジタル環境で公開されていないため試聴するのも簡単ではない状況がもどかしいが、本作はLuminous Orangeの傑作であるとともに、日本のインディ・ロックシーン史に残すべき名盤だと思う。シューゲイズ、ドリームポップ好きなら機会があればぜひ聴いてみて欲しい。

評価:★★★★☆ 9/10