Julie / My Anti-Aircraft Friend(2024)

新譜

ノイズロックやハードコア、グランジの影響を色濃く受けて、イギリス本国のものとは異なる独自の発展を遂げたアメリカンシューゲイズ。Julieのデビューアルバムはその成果を受け継いだような作品だ。MBVの礎に、Swilies、Sonic Youth、スマパンの面影を掘り込んでいる。ジャリジャリした石粒のようなディストーションギターのテクスチャー、デッドでドライな音響処理、不穏な静寂と爆発的な轟音のOn/Offを繰り返すカタルシス。サイケデリックな陶酔感を与えるタイプではなく、グランジ寄りの破壊的なシューゲイズだ。
一瞬のブレイクからフィードバックノイズと轟音ギターが火を噴く爆音系の醍醐味のようなカッコ良い「Catalogue」を挨拶がわりに、緩急のあるトリッキーな曲構成でリスナーを良い意味で焦らす「Very Little Effort」、からの『Isn’t Anything』期のMBVを彷彿とさせる「Clairbourne Practice」の前半のアグレッシブな展開にはシビレる。中盤からは攻めのプレイだけではなく、枯れた歌心と音圧たっぷりなノイズの絡みによる気だるさが心地よい「Knob」「Thread, Stitch」や、静寂と倦怠から緊張感あふれる狂気の轟音アンサンブルの殴打へなだれ込む「Piano Instrumental」等も披露し、最後まで聴きどころが多く隙が無い。
正直もうちょいポップな感じでくるんじゃないかとナメてかかっていた。最初からピンとくるというより、聴くたびに良さが沁みてくる玄人ウケな作品だ。全体的に混濁したテンションコードが支配し、ビターで仄暗い歌メロが儚げに佇み、激しい轟音ノイズギターが明滅を繰り返す硬派な作り。同時に、まだ今後さらに発展していくであろう青き可能性の胎動も感じさせるのも心強い。
最近のリスニング環境はリスナーの健康を慮ってかヴォリュームが聴力を害さぬレベルまでしか上げられなくなっており、お気遣い頂き大変ありがたいのだが私のような鼓膜に音圧を直に感じられないと気が済まない爆音中毒のシューゲイズ愛好者にとってはありがた迷惑な仕様でもあり、この作品もほんとはもっと大爆音で聴きたい。格段に気持ち良いはずなのだ。
となればやはり、ライブが見たくなってくる。ゴリゴリの音とは対照的にベースボーカルのアレックス・ブレイディのソフトなゴス風ファッションや男性メンバーのシャイな佇まいは日本でもウケそうなので、人気が出てツアーに来てくれるととてもうれしい。よろしくお願いします。
評価:★★★★ 8/10