Miki Berenyi Trio – Tripla(2025)

新譜
新譜

 Lushの関連作品のなかではエマのSing-Singの1stに並ぶ傑作。そしてLushが好きな人はこちらの方がより刺さると思う。
 Miki Berenyi Trioは名前の通り元Lushのミキを中心としたドラムレスのトリオ。ゆえにリズムは打ち込みだが、デジタル感がそこまで強くないバンドサウンド的な音作りで、従来のファンにとっても違和感なく馴染みやすい。またLush的視点だけではなく、トリオの1人に雑食サイケポップバンドMooseの中心メンバーにして旦那さんのK.J.”ムース”マキロップがいるのも魅力的だ。Mooseでもシューゲイズ、ガレージロック、フォーク、ソウルなど多彩なサウンドを展開していたが、それ故本作のサウンドやリズムセクションは、トリオのもう一人であるAircooledでも活躍するオリバー・チェラーの参加も相まって、シンプルなのに飽きの来ない、奥行きのあるサウンドに仕上がっている。
 不思議なのが、本作がメロディラインも含めて往年のLushと変わらない輝きを放っている点である。アルバム名『Tripla』(ミキの父方のルーツであるハンガリー語でトリプルの意)からも分かる通り3人での制作が強調されていて、実際ソングライティングも3人それぞれが持ち寄った曲が3曲ずつ収められており、それらを3人で作っていったとの由だが、なぜかすごくLush的である(もっというとエマの書いた曲っぽい)。そういえばアルバムのアートワークも昔の4ADっぽさを感じさせるデザインで、これは実際4ADのアルバムアートワークを担当していたクリス・ビッグによるデザインだ。ミキとK.J.がこれまでやっていたバンドPiroshkaは今までと違うものを作ろうというオルタナティブな感じがあったが、Miki Berenyi Trioでは明確に原点回帰である。しかもそれがブリットポップ化した『Lovelife』ではなく『Split』以前のシューゲイズ、ドリームポップだったころのLushであることが嬉しい。もちろんただの懐古趣味ではなく、現代ならではのエレクトロな隠し味も効いているし、歌詞では今この世界で起こっている同時代的なテーマを扱っており、古臭く感じない。従来のファンにも、現代のリスナーにも開かれた、新鮮なポップアルバムになっているところが素晴らしい。

 とにかく先行シングルの「8th Deadly Sin」を聴いてまず胸が躍ったのだが、夏にぴったりの涼しげなコーラスリバーブギター、80’sニューウェーブに影響を受けていた当時のシューゲイズを思わせる美しいメロディ、そして初期Mooseの「Suzzane」や「Uptown Invisible」を思い出す軽やかな4つ打ちビートにグッとくる。環境破壊によって自分で自分の首を絞める現代社会への警句となっているビターな歌詞は、爽快な曲調に対する絶妙なカウンターとなっていて、キャッチーさと同時に深さもある秀逸な曲だ。続く「Kinch」や「Vertigo」では後期Lushでは失われたミキの耽美的なヴォーカルスタイルが十二分に堪能できる。うねるベースがカッコいい「Gango」はCurveとかあの辺のダンスミュージック+シューゲイズを彷彿とさせる曲で、ディスコビートとファンキーなベースラインで躍らせながらテンプレなマッチョイズムを皮肉る「Big I Am」や、マッドチェスターを思わせる黒いベースラインでネットリと踊らせる「Manu」といった曲とともに新味要素だが、いずれもしっかりと歌を聴かせるポップな曲である。最後の「Ubique」では甘やかなギターアンビエンスが取り巻く陶酔感抜群なドリーミーシューゲイズで、大満足のエンディングだ。

 シューゲイズというマニアックな音楽スタイルは90年代の激しい栄枯盛衰のなかで忘れ去られるように短命に終わったが、サブスク時代の今、ドリームポップとともにインディミュージックの定番スタイルとなって、当時志半ばで解散したバンドが復活し脚光を浴びるようになったことが喜ばしい限りだ。しかもあの頃の続きのような、フレッシュな作品を作ってくれるのが何より嬉しい。冒頭でLush関連作品の傑作と書いたが、それ以上に、一昨年のSlowdive『Everything Is Alive』とともに、ポップな領域に浮上したシューゲイズの風格を見せつけてくれる作品であると思う。

評価:★★★★ 8/10